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2013年10月23日 (水)

ターナー展(東京都美術館)

秋の本命。会社を休んで(誕生日に休みをくれる)行った次第である。ほとんどテートから持ってきていて、質、量とも十分といえる。

年代順で「初期」のコーナーから。若描きで既に風景画として完成されている感じが凄い。遠近を駆使した建物のスケッチも得意だったらしい。ターナーといえば抽象画風の風景だが、「パンテオン座、オックスフォードウトリート、火事の翌朝」とか「ダラム大聖堂の内部、南側廊より東方向を望む」とか見ると確かに建物描写もきっちりイケている。「月光、ミルバンクより眺めた習作」では、月の周囲にうっすらと広がる光が巧みだ。これは写実的な月夜だ。

次のコーナーが「崇高の追求」ということで、ここでは「バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨」(しかしいちいちタイトルが長いんだな)がいわゆるターナー風が始まっている感じで印象的。白い虹が出ているぞ。「ディドとアエネアス」といった歴史画テーマの絵も描くが、主役はあくまで風景だ。クロード・ロランみたいな理想風景の雰囲気だが、中央に水面に映る建物群があってそれがまた美しいものだ。

「戦時下の牧歌的風景」のコーナー。ここには珍しい風俗画がある。「鉄の値段と肉屋の小馬の装蹄料を巡って言い争う田舎の鍛冶屋」しかし、フランドルあたりの風俗画を見ちゃうとこれのドラマ性はイマイチかな。そつなくやっている。「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」は波が見事だ。クールベさんに見せたい……が、理想化を嫌うクールベさんは鼻で笑うかもしれない。見事に演出されている波なんだ。「イングランド:リッチモンド・ヒル」は光当たる木々に注目。

「イタリア」のコーナー。見てわかるヴァチカン風景「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」尊敬する偉大な画家ラファエロを登場させる……が、建物の気合いの入り方に対し、ラファエロの顔(だよな、下の右にいるヤツ)があかんやろそれ。まあ小さいけどさ。「レグルス」は光演出ものの傑作。瞼を切られて眩しくて失明したレグルスの見た光だそうだ。建物と光を見事に使っている。「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」は高い木が見事ですな。漱石「坊ちゃん」の赤シャツが言う「ターナー島」の木みたいだってさ。

「英国における新たな平和」コーナー。ここではペットワース・ハウスという邸宅のスケッチ群が面白い。別に大したもんじゃないが、楽しんでる様子がいいだろ。

次に「色彩と雰囲気をめぐる実験」コーナー。ターナーは風景画の雰囲気を研究するため、色の組み合わせのようなものをいろいろ試していたが、いやいやここが凄いんだ。風景の雰囲気を色彩だけで出すってことは、要するにやってることが抽象画なのだ。「『バンバラ城』のための習作」とか「『ロングシップス灯台、ランズエンド』のための構図」なんてのを見ると、我が愛するザオ・ウーキーって名前でブリヂストンあたりに並べちゃっても違和感ない。いやしかし一番仰天したのは「三つの海景」。これは一つの画面に3つの海を並べて試し描きしたものなんだけど、解説を見て3つを確認するだけではもったいない。全体を見てみよう。どうよこれ! 時代を100年ぶっ飛ばして見事なモダンアート。東京都現代美術館に並べてもオッケー。全く問題ない。このオーパーツ的な驚きこそがターナーだ。

「ヨーロッパ大陸への旅行」コーナー。ここは光りもの大作「ハイデルベルグ」が一押しかな。それから「ヴェネツィア」コーナー。「サン・ベネデット教会、フジーナ港の方角を望む」で、いよいよターナー節本領発揮か。

クライマックス「後期の海景画」。「荒れた海とイルカ」極めて抽象性が高くなる……が、なんとこれ未完なんだって。つまりターナーは抽象画を描くつもりはなくて、抽象性の高い雰囲気に、色々具体的に描き加えて完成させるつもりだったらしい。今日、我々が仰天して見るターナーって実は途中で描くのやめちゃったヤツとか、未完成作品が多いらしい。そうだよ当時抽象画なんぞ無かったからな。見落としがちだが水彩で描いた習作群「日の出」とか「ビギニング(はじまり)」とかのモダンな雰囲気にも仰天されたい。プリミティブに描かれた抽象性は20世紀を先取りしている。「風下の海岸で砕ける波、マーゲイト(『烽火と蒼光』のための習作)」これも習作らしいが凄い。ザオ・ウーキーの抽象画と並べて互角に勝負できる。いや、ザオ・ウーキーはきっとターナーを見てその要素を読み取ったに違いない。

「晩年の作品」コーナー。最後にある「湖に沈む夕日」これもほぼ抽象画。これで完成のつもりだったかそうでないかは、議論してるんだって。

古典ではなく、むじろモダンアート好きが行くべきだ。19世紀の絵画に図らずも宿った現代性に驚くに違いない。
http://www.turner2013-14.jp/

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