« 橘小夢展(弥生美術館) | トップページ | 石田尚志 渦まく光(横浜美術館) »

2015年5月 3日 (日)

戦争の表象(板橋区立美術館)

GW突入直前に仕事上冴えないことが起こり、冴えない気分のままGWに突入。嗚呼平社員リーマンなんて一兵士っすよ。前線で撃たれるっすよ。まあ命の危険はないんですがね。
さて、この美術館はなんたってアクセスが悪くって、成増から1時間に2本ぐらいのバスで行った。収蔵品展だしGW中でもガラガラにゃん。内容は読んで字のごとく、戦争がどのように美術作品に影響を与えたのか、ということなんだけど、時代が時代なのか、あるいは当美術館の傾向なのか、シュールレアリズム絵画が多い。しかし、ここがポイントで、無意識とも適当とも取れるシュールレアリズムでさえも、当時の重苦しい雰囲気は十分に感じ取れる。戦争で勝っていた報道があってもなお「なんかまずいことが起きてるんじゃないか」という気分は大いにあったようだ。

最初のほう、新海覚雄「貯蓄報国」これはシュールじゃなくて具象。内容としては郵便局で戦争に備えて貯蓄して国の金をキープしようってやつ。あーそうそう作家の解説に、その人が戦争とどう関わったかが書いてあるぞ(一度目を通しただけで覚えてないが)。古沢岩美「飛べない天使(おうむ)」これは戦後出てきた娼婦もモチーフにしてるらしいんだけど……たくましいねえ。「憑曲」は原爆がモチーフの傑作。全体が赤く、キノコ雲もあるけど、あとはボッスのような幻想もの。リアルな情景ではないが、それだけに感情面で迫ってくるものがある。同じ傾向に、渋谷駅にある岡本太郎の「明日の神話」がありますな。あれも原爆。うん、大きさは相当違うが、あれと並べてもいいぞ。あるいは、写真だけどChim↑Pomの「広島の空をピカッとさせる」(確か今オペラシティで出てますな)と並べると、その、あまりの風化ぶりに驚くだろう。あの写真作品もずいぶん批判されたが、いかに「あんなもん」になってしまったのかを見事に表現したってことで評価している。紅白歌合戦での吉永小百合の原爆の詩朗読の偽善っぽさよりずっといい。

国吉康雄「Head of a Clown」はピエロ風の人の頭部だけど拷問のあとかと思ってしまうな。時代が時代だけに。難波香久三(架空像)の「蒋介石よ何処へ行く」と「地方行政官A氏の像」は思いっきりダリ風。小川原脩は、生き残るために体制に寄り添って戦争記録画を描いたりしたけど、その結果どこぞの団体を除名されたんだって。

浜松小源太もシュール系、でも絵の中に日の丸とかあったりして、不安や恐れがひしひしした感じで伝わる。時代の空気を読んでいる。井上長三郎「ヴェトナム(母子)」……ああきっと母は死んでいて、子供が必死に寄り添っているな。高山良策「矛盾の橋」この絵の絵説がないのだが、「矛盾」という言葉と「戦争」という事象はなんとなくしっくりくる。平和のために人を殺す、なんてのが戦争だもん。勇ましく胸を張って、我が国が滅びぬために始められたはずの戦争だったが、現場は暴力と略奪と単なる人殺し……で、そんな場面にいた山下菊二「祀られる戦士」は傑作。これもシュールな感じだけど、称えられ、祀られる兵隊の、体は矛盾で引きちぎられ、パーツごとにイヤらしい音を立てているではないか。

3番目のコーナーでは杉本鷹の裸婦像がいっぱい。描きまくった。描いて描いて描き尽くさないと、他のものを描く気がしない、というのは私も創作者側に一応立っているので大いに共感する。

それにしても、今現在、現政府が戦争を起こしたがっているんだ、この国は戦争の危機に巻き込まれたんだ、という発言をしばしば見かける。でも、この企画の展示を見てると、まだまだ日本は平和なんだなーと思うんよ。いったいその発言してるヤツらは本気かよ、と言いたい。実は君は戦争が近づいているなんて、本心じゃ少しも思ってなくて、単に自分が胸張って見下せる「愚民」とやらを一生懸命探し回っているだけじゃないのかい。もし君が本当に危機感を持った芸術家なら、この企画にある作品のように、暗く、強く、大いに表現して訴えてほしいものだ。そしてそいつを見せてくれ。

無料でお得。
http://www.itabashiartmuseum.jp/main/exhibition/ex150411.html

|

« 橘小夢展(弥生美術館) | トップページ | 石田尚志 渦まく光(横浜美術館) »