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2015年6月 1日 (月)

鴨居玲展(東京ステーションギャラリー)

ひさびさに凄い画家に出逢えたものだ。なんで今まで知らなかったんだろうか。まとめて見る機会が無かったからかな。

初期はシュールレアリズムみたいな絵を描き、41歳で自分のスタイルを見つけ、スペインで絶好調だったが続かず、パリに行き、日本に帰るも、結局新しい道を見つけられないまま苦闘の末自ら命を絶つ。スペインでのスタイルも優れているので、そのまま続けていたとしてもよかったんだが、苦悶の中で生み出された自画像がまたいい……って美術鑑賞は残酷なんだぜぇ。

冒頭の自画像も内面描写風で結構いいんだが、まず初期はいろいろ試行錯誤してる感じ、印象派っぽい「婦人像」やシュールレアリズムの「月に吠える」「月と男」「赤い髪」、中でも「鳥」2点はそのまま突っ走っても面白いスタイルだ……ちょっと無難かな。「時計」「蠢く」「赤い老人」の赤いスタイル、パッと見これも衝撃的で、世の中こういうスタイルを一つ見つけたらそれだけやって終わっちゃう画家も多い。でも鴨居は違う。赤いのはここで終わり(晩年の赤い背景のは印象がずいぶん違う)。抽象もシュールもピンとこなかったのか、我がスタイルとしたのが「制止した刻」から始まる人物。男だ老人だ。なんとなく醜い顔だ。ちなみに鴨居自身はイケメン。「蟻と老人」とか見ていると、うーん、なんか「ゴリラ」だよな。全体に画面も暗いし笑ってないんだけど、人物にちょっと愛嬌が見える。顔がいかついゴリラの愛嬌みたいな感じだ。

スペインに行って、そこの人々との交流で筆が生き生き。特に酔っぱらいとか、老人とか、怪我を負って兵役を終えた人とか。弱いというか虐げられたというか、疲れたというか、そんな人達にえらく共鳴している。「私の村の酔っぱらい」「廃兵」なんてそうした絵の大作だ。暗い、そして辛そう、若くない、でも絵は決して冷たくないってのが不思議だ。あと「何で戦場に送ったんだ」みたいな「怒りの告発」でもない。「おっかさん」は老婆が若くない息子を叱るちょっと面白い(老婆息子がリアルなだけに)絵。サブタイトルにもなった「踊り候え」も暗い中、老人が踊る、というか踊っているつもりで動いているだけかもしれないが、それでも「踊り候え」なのだ。いや、そうだ。これこそが生きることだ、なんて言葉が聞こえてきそうですな。「蛾」や「風船」もそれに反応する老人。しかし……彼らが心の拠り所としている教会ってヤツが鴨居には相容れなかったようで、「教会」という作品がいくつもあるが、どうも妙だ。窓のない石のミニチュアみたいだったり、緑がかった画面で傾いて立ってたり、果ては宙に浮いてたり、シュールレアリズムでもイケる描画力があってこそだが、結局教会をいくら描いたところで宗教画に走ることもできない鴨居はヨーロッパをあとにする。

帰国して神戸に住むようになり、新しい題材を探して裸婦なんかを描く。「ETUDE(A)」「ETUDE(B)」でも、どってことなくてやめちゃう。「石の花」という男女がぴったりくっついてるのがあるが、あれ、これムンクか誰か描いてなかったっけ。モノクロで。「望郷を歌う(故高英洋に)」は韓国の人が高らかに歌っているが、唯一ポジティブな力強さ。あとの絵はもう苦しい。次の道が見つからない。老人などは描けるが、結局描いたって過去の焼き直しだよなあってことで落ち込んでしまう。それで描くものがなくなって苦しんでいる自分ばかりがリアルなので自画像を描く。「宴のあと」とか「ミスターXの来た日 1982.2.17」とか。中でも「1982年 私」は大作だが悲壮極まりない。真っ白なキャンバスの前の鴨居は生気が失われ、死相が出ていると言ってもいい。それを囲むかつての作品の人物達。どれもうまいだけに困ってしまう。もう描くものが見つからない。痛々しい絵なんだが、困ったことにこういうのが鴨居の傑作なんだな。あと「酔って候」って絵があってね、酔ってる老人だけど、魅力的ですごくいいんだよね。これ苦しんでる時期に描いているんだけど、職人的にこういう絵は描けるんだし、この路線で安住していればよかったのにねえ、あまりに「アーティスト」だったんだな。「出を待つ(道化師)」も深いじゃないか。そしてこれは背景が赤い。解説にはこれが新たな道じゃないかってあったけど、うーん、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。いずれにしてもこのあたりで人生も終わりにしてしまう。

あとデッサンがある。別に書くことはないが、なかなかいいよ。
しかし、絵の紹介を文章でやるのは難しい。これはマジ「行き」だ。行って見て候え。
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201505_Rey_Camoy_Retrospective.html

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