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2015年8月15日 (土)

ディン・Q・レ展(森美術館)

名前が変わっているのは、この人、ベトナム人です。日本は戦後70年。戦争を風化させるなと言いつつ結構風化しちゃっている感じ、に対し、ベトナムはまだまだ記憶に新しい(こういう印象を持っちゃうのはこの展示を見れば分かる)。レは、10歳の時にポル・ポト派の侵攻を逃れるため、家族と共に渡米した、そうです。テーマのほとんどがベトナム戦争。戦争の生々しい現場なんぞはないものの、間接的なアートの手法で、今までになく、かなり「迫る」印象をもたらす。戦争の展示は血まみれの死体やら泣き叫ぶ人やらを出しときゃいいなんて単純なドタマの人はぜひ見るべき。

最初にゴザを編む手法で作られた平面作品「消えない記憶」の一群。使われているのが、おお「地獄の黙示録」のヘリやらプレイメイトやら、それが横糸で、縦糸が……ベトナムの人? だっけな。それからナパームから泣きながら逃げる裸の女の子の有名な写真を、50メートルにも引き延ばして巻物にした作品……ってこれの意図はイマイチ分からん。
それから「農民とヘリコプター」という3面の映像作品がある。ベトナム戦争で使われたヘリの映像と、ヘリへの思いを語る人の映像、武器を搭載したヘリは恐怖だったが、今や戦争も終わり農民にもヘリがほしい、平和利用ならオッケーって人、あるいは、いやヘリはやっぱり人殺し道具だからダメだ……って人など、の話。意図したかどうか分からないが、ヘリの映像に例の「地獄の黙示録」の一番エキサイティングなシーンであるヘリ爆撃が使われている(ワルキューレのテーマは流れてないが)。これがオレには冷や汗もの。だってつい爆撃ドカーンでエキサイトしちゃうんだもん。でもそのヘリで心底恐怖を味わった人がエキサイティングヘリ映像の横でしゃべってたりする。いやが上にも「ああ、オレは戦争映画で戦争の表面っきゃ見ていないのだ」という気分がヒシヒシしてきますな。この気分を忘れるなよ。戦争なんて知ってるようでてんで風化しちまってることを思い知らされる(オレだけじゃないよな)。あと飛ぶものとして最初と最後に入るトンボの映像と歌が美しい。

次の「傷ついた遺伝子」。これもさりげなくハード。枯れ葉剤により生まれた結合双生児のキャワイイ人形やらお洋服……さりげなく「クる」内容。それから「父から子へ:通過儀礼」。映画「地獄の黙示録」と「プラトーン」。それぞれ主演のマーティン・シーンとチャーリー・シーンは実際の親子でもあったそうな。で、似たようなシーンを並べて見る。なるほど。次、「ベトナム戦争のポスター」アメリカ視点ばっかじゃねーかって怒りの展示。

次の部屋「抹消」という部屋一つを使った大型展示。これがなんか、衝撃的作品。ホーチミンのマーケットで大量の肖像写真を手に入れたが、それと難民の船の座礁事件が重なる。肖像写真の海で、難民を乗せた船が座礁する。写真を一枚選んで下さい……うーん、うまく説明できん。とにかくその場にいると、戦争によって「ものすごく虚しくされてしまうものたち」に囲まれる気分だ。思い出もろとも人が投げ捨てられていくのだ、だからせめて思い出の写真一つでも救ってあげよう。その次の部屋。ヘリが海に次々と落ちてく(捨てられていく)CG「南シナ海ピシュクン」。なんで捨てられていくかは、その場の解説でも読んでくれ。

「人生は演じること」。ベトナム戦争の「リ・エナクトメント」という当時と同じようなものを着て、食べて、行動して、戦争を分かっていこう、という活動をしている日本人の話。この人の言うことや行動が、どれだけ当たっているかは分からないが、レからすれば興味津々、なぜ外人がここまで分かろうとするのか謎に違いない。それで、その人のインタビューと映像。ちょっと長いんで一部しか見なかったが面白いぞ。

次の部屋で、ベトナムの日常をいくつか展示。「ポルノ、あります」ベトナムじゃCD盤面を見せて置いておくのがポルノショップの標識だって。ベトナムの旗だらけの自転車。タイヤを組み合わせ、原付修理の標識。アメリカ人向けのジョークを入れたベトナムの観光ポスター。もう怒ってないからおいでよってな話。

それから仏領だったアルジェリアのラッパーの話をラップ映像で。戦争中の人々のスケッチ。画家トラン・トゥルン・ティンの話など……

ベトナム戦争だけでも、これだけの訴えたいことと、それぞれを演出する芸術的意図がある。凄い。
最近、世の中が戦前に近くなったとか言って、安保反対で国会前に行ったりする人も多いが、そんなところ行くよりも、まずはここに来て、表現の多彩さとメッセージを読み取るべきだ。国会前なんぞはそれからだ。そして君がもしアーティストで、戦争反対ならば……このディン・Q・レを見習うがよい。君には君にしか出ない戦争反対の表現がありゃしないか。それで人を動かすことができやしないか。
http://www.mori.art.museum/contents/dinh_q_le/index.html

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