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2015年10月19日 (月)

写実って何だろう?(ホキ美術館)

行きたい行きたいと思って、やっぱ遠いもんでなかなか行けなかったこの美術館。ついに先日土曜日に行ってきた。写実絵画が専門のデカい美術館だぞ。
ちょうど企画展の解説トークに行き当たり、これまたちょうど……というか、奇しくも、というか、ここの重要なコレクションであり(まるまるワンフロア大量展示)、巨匠でもあった写実画家、森本草介が亡くなったというニュースが飛び込んできたそうな。もちろん……はい、私の知らん画家でぇ、なにしろ写実は磯江毅ぐらいしか知らんもので。っていうか、磯江がいたからこそ、写実絵画を見に行こうという気になったものです。
前々から私は「写実は本物そっくりの絵を描きたいという初期衝動すなわちプリミティブの一種」なぁんて書いていたんだけど、どうもそう単純じゃなさそうですなあ。写実といっても結構その表現も多様なのです。
そもそも「写実」ってなんぞや、と思うに、「あー写真みたいなヤツでしょ」と思うかもしれんが、まず写真と違うのは、ピントが無いのね。写真は対象物にピントを合わせその前後はボカすんだけど、写実絵画はまずそれをやらない(まあ、やるのもあるだろうけど)。写真にはパンフォーカスという全部にピントを合わせる技法もあるが……実はそれだと遠近感が出ないという(今日のトークによれば)。で、私としてはそれよりも、いくら写真がパンフォーカス高密度であろうと、1、2メートルも引き延ばせばやっぱりエッジはどこかボケていて「ああ、これレンズだなあ」と感じてしまうであろう。写実絵画はそれが無い。どんなデカい画面でも細部までシャープに表現できる(えー、もちろんしない表現もあるだろうけど)。
一方人間の目に映る「本物そっくりに描く」も写実絵画じゃないんだなあ(これもトークによる)。なんたって人間の目は2つあるし、カメラと同じくピントもある。だから人間の目に映ったそっくりも、実は描けないんだな。要するに、写実絵画って「本物そっくりなんだけど写真とも人の目とも違う何か」であり、その悪魔的とも言える「何か」に魅了されたのが写実画家なのだ。

という前置きはさておき、「ギャラリー」と称するエリアが大小9つある。あと、構造上中空になっているところもあって、外から建物を見ると結構壮観なんだな。
最初のギャラリー1が今回の企画の部屋(11/15まで)……ったってまあ、今回は「写実って何だろう -その多様性と可能性-」ということで収蔵品のベストセレクションみたいな感じです。
最初が野田弘志「摩周湖・夏天」、解説トークによれば「重さを描きたい」とかで、厚塗りをする。このマチエール(質感)込みの「写真っぽくなさ」がいい。それから小尾修「Kay」という人物画。解説によると、ルーブル美術館のレンブラントを独占して(そういうシステムがある)じっくり模写、古典技法から学んだものを生かしているとのこと。これも塗ったところに傷を入れたり、単なる写実的なキレイさとは違うものが出ている。吉田伊佐「蒼流」滝の絵なんだけど、アクリル絵の具を使っている。透明感のある塗り重ねができるが、乾くと縮んで平面的になり、モッコリという表現はできないそうな。石川和男「海風を歩む」海と広い空と歩く人、いい風景だなあ。大矢英雄「海の記憶に」テンペラ絵の具を使用。油彩とはまた違う質感。島村信之「籐寝椅子」寝椅子の女性が窓からの光に照らされている様子。こういう時の窓は北窓なんだって。日光は強すぎるそうな。石黒賢一郎、3人の女性というか2人女の子。エヴァンゲリオンの綾波とマリとアスカをモチーフにしてるらしいが、髪飾りでそれを彷彿とさせる程度で、別に普通の肖像でもある。それよりこの人、テクニックがものすごく、目を近づけても絵の具も筆跡もサッパリ分からない、見た人は誰も、これ写真じゃねえの? とかついつい言ってしまう。解説では、下の階にこの人の描いた黒板のものすごいのがあって、何人もの画家が見に来たが、どうやって描いているのか分からないと。また島村信之「ロブスター(戦闘形態)」これ、一番人気の絵らしいが、画廊に展示されていた時は売れてなかったそうな。ロブスターが赤いのは茹でて食べたから、だって。もちろんリアルでデカい。藤井勉「追想」女の子はきっちり写実で、背景の枯れ葉をちょっと絵画風に。うん、こういうメリハリがあるとまたいいですな。同じく「生」も真ん中の木に存在感をバッチシ与える手法。五味文彦「レモンのある静物」解説によればレモンはガラスの反射屈折よりも難しいんだって。色が。でももっと難しいのはザクロなんだそうな。他にもたくさんあるのだが、とりあえず、こんなのがギャラリー1。

ギャラリー2は全部森本草介。ちょうど朝、亡くなったニュースが飛び込んできたそうな。とにかく「写真では出せない何か」がそこにあると思わせる。風景の独特の色合いというか、空気感のようなものがいい。人物は割と普通に写実だなあ、と思う。

ギャラリー3は、圧塗りの巨匠、野田弘志から。「蒼天」という巨大な風景画。これ実に「絵の具」を感じさせる。それでいてなお「写実」なところが面白い。「オロフレ峠」は木々の表現が超現実っぽくて好きだな。ここでバカテク石黒賢一郎「存在の在処」これが……噂の黒板。いや、人物の背景ではあるが、確かにナンジャコリャというぐらいスゲエ! だって黒板を消して白いのが少し残ってるとか、チョークで書いた文字そのままとか、それを絵の具で描いてあるんだぞ……いや、どうして液体の絵の具で、固体(チョーク)のあとを忠実に表現できるのだ? もうバカテク。神業のような表現力。永山優子「Man is」ええと、女性ヌードだよな。モデルがナイスバディじゃないんだけど、容赦なくそのまま描いちゃうクールベさん流。

ギャラリー4は、小品。石黒賢一郎「QH-EDO3」この「QH」は「キューティハニー」に違いない。アニメにインスパイアされてるそうな。

ギャラリー5は、陶器コレクション……なもんで猫に小判だにゃ。全部パス。

ギャラリー6は中山忠彦「花飾りの帽子」。描き方が写実っぽかったルノワールみたい。そういう絵があるの。

ギャラリー7は、原雅幸特集。ギャラリー1でも1点出ていたが、風景画で全部にピントが合っているいわばパンフォーカス。それでいて遠近感もちゃんとある。「マナーハウス」「遠声」「ドイル家のメールボックス」いずれもスゴい。

ギャラリー8はそれぞれに音声解説付きでいろいろ面白い話も聞けるのだが、もう疲れてきた。今まで出てきた大矢英雄、石黒賢一郎、小尾修、原雅幸、野田弘志、森本草介など、ここまで来るともうおなじみメンバーな感じがしてくる。

最後のギャラリー9、磯江毅が2点。この人がいなければここには来なかった。

というわけで、遠いもんで一回行けばいいかな、とも思ったが、また行きたくもあるな……
https://www.hoki-museum.jp/

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