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2016年10月30日 (日)

クラーナハ展(国立西洋美術館)

萌え萌え女体画家のクラナッハ展だお!
……有名なフェリーニの映画に「81/2」というのがあって、読み方は「はっかにぶんのいち」だそうだ。私は「はっか」などという読み方は学校で習っておらんので「はちとにぶんのいち」と読むのだが、これには拒否感を示す人が少なくないらしい。やっぱこれは「はっか」であるべきじゃないかと。何が言いたいかって言うと……「クラナッハ」じゃねーのかよっ! 世の中はずっと「クラナッハ」と言ってたはずでオレもそういう認識だったのだが、今回「クラーナハ展」と西美がやっちゃうなり、何のためらいもなく「はい、クラーナハ」って言ってるヤツラなんなの? 絵さえよけりゃええんか? 言葉に対するコダワリってねーのかよ! ホワン・ミロじゃなくてやっぱジョアン・ミロじゃないかとか、考えたことないのか?
と余計な文句を言いつつ、んじゃオレだけは「クラナッハ」で通すもんね。だってクラナッハなんだもん。ともあれ諸君、今回の内容は実に驚くべきものだ。よくある「なんたら美術館展」でもクラナッハはせいぜい1枚か2枚かありゃいい方で、今回それが何十枚と来ている。他者の作品で水増しされているという噂も聞いたが、どうしてどうしてこれだけ来てりゃあ十分だ。よくぞこれだけ持ってきた。全く文句はない。問題は……クラナッハそのものは、独特で貴重ではあっても。そう仰天するほどうまくはないことだ。

最初にあったのは「フリードリヒ賢明公」の肖像。まあ普通かな。「聖母子」はガッチリ背景まで描き込んである。へーこういうのも描いてたんだ。隣の「天使に囲まれた聖家族」やっぱ時代のせいなのか、子供の体型はちょいとヘンだ。「聖カタリナの殉教」ほー、こういう鮮やかというかアクションというか、天からの光線というか、そんなダイナミックな絵も描いてるんだ。右下の倒れている人なんて現代的な感じだしな。

次は肖像画いろいろのコーナー。やっぱちょっと顔の雰囲気が古風でな。悪くはないよ、うん。「ブランデンブルク=クルムバッハ辺境伯カジミール」なんて地味っぽいけど味がある。で、唐突に岸田劉生「川幡正光氏の肖像」なんてあるのだ。どうやら今回の企画、クラナッハに影響を受けた後の画家までカバーするらしいぞ。水増しとか言いっこなしよ。次のコーナーで版画いろいろ。想像力が試される「聖アントニウスの誘惑」あり。見るとなかなかやるじゃん。がんばって怪物描いてる。

それからいよいよ裸体だお。「キューピッド」はボチボチだが、やっぱり「ヴィーナス」これぞ、クラナッハの裸女。こんなところにクビレがあっていーんかい。いーんです! こんな魚みたいな腰つきでいーんかい。いーんです! だってクラナッハの萌え萌え画なんだもん。イマドキで言うならこんなに目がデカくていーんかい。いーんです、と同じなんだ(ホントかよ)。考えるな、萌えるんだ。それからピカソの関連作品あり。あと「ルクレティア」も「ヴィーナス」と似た感じで、黒い背景に裸女。それも薄衣(クラナッハのコダワリアイテム)まとっている。ルクレティアは自分で自分を刺した人なんで、剣を自分に向けている。それはそれで一応いいんだけど、問題は表情だ。こういう場合、どういう顔にしたらいいのかクラナッハも悩んだのか、結構困った顔している。それから現代のジョン・カリンって人の「スノ・ボ」……クラナッハの体型を意識したらしい女性像だが……この体型キメェっ! それから次の部屋にあるのはデュシャンかな……の写真作品と、名品「泉のニンフ」。これがまあ、横たわる裸女なんだけど、素直にキレイとも言いがたく(別に汚いわけではない)、やっぱし体型がなんかヘンなんでモヤモヤする。このモヤモヤ感が実に「クラナッハの裸女」だよな。それから次の部屋が一番仰天する。「正義の寓意」という裸女の絵があるが、それを元にしたレイラ・パズーキ(イラン生まれらしい)という人の現代アート。中国の複製画家百人に六時間以内って複製させたものが部屋の壁にドバーンと並ぶ。見ると複製のはずがそれぞれ全部違う。中にはナンジャコリャみたいなものあるし、あれ元の絵より結構キレイじゃんというのある。何よりも、こんなオフザケっぽいアート(一応工房作のなんたらを探るとかいう真面目な意図というかタテマエはある)の脇に貴重なオリジナルがあることだ。いやいやいやこっちがメインじゃなきゃアカンでしょ。でもスペースの関係で致し方ないし、逆に、この展示方法が意図的な現代アートパフォーマンスにも見える。

階段下りて、「女のちから」というテーマ系だってお。いろいろな作品が出ているのだが、要するに、ブサイク男が美女をはべらしていて、その美女達ってのが実は自分の娘達で、生き残るためにはらませてしまったが、結局は美女に殺される、という一連のストーリーに見える。「ヘラクレスとオンファレ」がまず美女をはべらせるオヤジで、「不釣り合いなカップル」も美女と野獣っぽい、あーこれは日本の浮世絵で、鬼と美人の組み合わせでもあるよな。「ロトとその娘たち」が話によると、どこぞに逃げて世界が破滅したと思ったロトと娘達は、人類生存を駆けて父娘の子を作るとかいうヤバい話。娘二人の親であるオレからすると……ありえねえ。絵は割とキレイではあるが。「女性の肖像」がさりげなくいい。目玉の一つ「ホロフェルネスの首を持つユディト」これ、今回修復したんだってお。顔立ちもいいし、何よりもクラナッハの妙な体型が目立たなくていいな。首もヤバ目で。隣の「洗礼者ヨハネの首を持つサロメ」って、これ同じじゃん。こういうのが好きだから描いてる感がありありで。で、ピカソの版画とか、森村泰昌のユディトに扮したのとかある。悪くはないが……今見たいものじゃないよなあ。

最後の部屋では宗教家の肖像とか。おなじみルターの顔。でも一番面白かったのは「メランコリー」という絵。右に翼のついた女性、床では何人もの赤ちゃんがドタバタしている……え? 踊っているの? とにかく妙な景色なんだ。現代アート風にも見える非日常空間な感じがいい。

この貴重品の群にして現在アートと混在する野心的展示方法。当時の雰囲気だけに浸らせない攻めの姿勢もまた面白い。いや、オレは好きだよこういうの。
http://www.tbs.co.jp/vienna2016/

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