« 「田沼武能肖像写真展」&「お蔵出し! コレクション展」(練馬区立美術館) | トップページ | シャセリオー展(国立西洋美術館) »

2017年3月11日 (土)

ミュシャ展(国立新美術館)

アルフォンス・ミュシャは劇場のポスターやら美女の絵やらアール・ヌーヴォー装飾やらで人気だったが、恐らくは常々、「我が祖国、我がスラヴ民族の力になりたい」なんて悶々としていて、五十歳を迎えて故郷のチェコに戻り、それから全身全霊で16年かけて20枚の油彩超大作を描き上げた。それがウワサの「スラヴ叙事詩」だ。ミュシャ展でこの中の1枚でも来てりゃあ目玉になるに十分なもんだけど、それが今回20枚全部来る……20枚全部来るだとぉ? あ、あ、ありえねーっすよ! マジヤベーっすよ! いいいい今すぐ行くっすよ! と知ってる者なら鼻血ものの壮絶な企画である。開催最初の金曜夜に行った。そこそこ混んでたが、絵がデカいから、混雑でもそんなに鑑賞の妨げにはならない。

入るといきなりもう「スラヴ叙事詩」がドカーン! 前菜はない。いきなりメインじゃ。とにかく天井ギリギリまである巨大な絵画群で、見上げるしのけぞるし上の方の細かいところは双眼鏡なり単眼鏡なり要るぞ。ううむ、かつて日本の美術展でこんなデカい絵展示したことあるのか? 遠藤彰子女史の絵でもこのデカさにはかなわないのではなかろうか。
20枚全てがミュシャの心血注いだ傑作には違いないのだが、その中でもそこそこのヤツと、スゲエやつがある。歴史のほうは解説読んでもよく分からんので(当然ながら120パーセント堪能したい方はよく読みたまえ。1枚ずつちゃんと書いてあるぞ)、純粋に絵を見て、象徴的やら幻想的やらの要素が強い方がオレには魅力的な絵に見えるんだお。……で、オレ的スゲエヤツを見ていこうぜっ。一番最初の「原故郷のスラヴ民族」のっけからデカい。右の方にいるのは多神教の祭司ですと。敵に怯えるスラブ娘の目つきが迫ってくる。次の「ルヤーナ島でのスヴァントヴィート祭」これもデカい。人々が浮遊している感じがなかなか幻想的でいい……って浮遊しているのか? 「スラヴ式典礼の導入」。これは左にいる輪っかを持っている上半身裸のイケメンが印象的だが、これはスラヴ人団結のメッセージですと。確かに拳を握ってこっちに向かい「さあ、君も共に!」なーんてやられると、その気になっちゃうぜっ。この絵の面白いところは、その青年をはじめ前景の人々は暗めに描いてあり、背景は極めて明るく描いてある。つまり前景だけが重要じゃないぞ、ということで、この明暗の差をもってすれば、背景にも目が行くってぇものよ。なかなか計算高いぜミュシャ。

次の部屋にも「スラヴ叙事詩」がいくつか。「言葉の魔力」という3枚組がある。えれえ巨大だがこれはまあまあ。「ヴォドニャヌイ近郊のペトル・ヘルチスキー」は死屍累々な感じが……待てよ他にも馬が死んでるヤツとかあったな。歴史は厳しいのう(他人事)。「フス派の王、ポジェブラディとクンシュタートのイジー」これは室内光がよいな。ここで、今回のうち最もスゲエ絵に出くわした。「ニコラ・シュビッチ・ズリンウキーによるシゲットの対トルコ防衛」。タイトルを見ても解説を読んでもサッパリ分かりませんな。でもデカい画面いっぱいに燃える情景。画面全体が赤ともオレンジともつかない統一感のある色彩。そこに唐突に出現している中央右の黒い影は? はい、これは極めて象徴的な描画だけど、煙なんだってさ。なかなかこれ効果的だよな。全体に抽象的といってもいい感じなもんで、色彩を感じてボケーと見ていることもできる。いや、これはむしろ解釈しないで感じるものだお。

3つ目の部屋。これがなんと「撮影可能エリア」。そこらじゅうでバシャバシャカシャカシャ。マジウザい(当然オレは撮ってない)。これは要するに写真を撮っていんすちゃぐらむみたいなSNSに上げて、話題にしてもっともっと客に来てもらおうというコンタンなんだろうが、ブッチャケこんなエリア無い方がよかったよ。無くても客は来るだろ。現地での展示じゃあ撮影可能だって話もあるけどさ、客が分散する常設展と、殺到する企画展しかも部屋の一つじゃカメラのうるささも大いに違うであろうよ。あと音だけじゃなくて、結構目ざわりなのがモニターっちゅうか液晶画面っちゅうか、とにかく光って目立つ明るいヤツがそこらじゅうでチラチラしてやがる。気分はたばこ吸わないのに喫煙席に行かされたような感じか。でも6割がたのヤツが嬉々として撮ってるな。まー、でも絵はやっぱりスゲエですな。「ロシアの農奴制廃止」のかすむ赤の広場のワシリー寺院。「聖アトス山」の射し込む光。「スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオムラジナ会の誓い」の人の輪と、左側のスラヴ娘。美しく、力強く、ミュシャのスラブ魂をいやがうえにも感じるし、絵画そのものも結構魅力だお。で、この部屋をもって「スラヴ叙事詩」は終わり。

まあ、あとはどうでもようござんす。堺市とOGATAコレクションから、ウケのイイヤツをピックアップして展示してある。最初におなじみアール・ヌーヴォー。「四つの花」や「四芸術」なんてよく見るんで飽きてる人は流し見でよい。「ハーモニー」や「クォ・ヴァディス」(エロいですな)は、油彩でレアかと思ったら、これも堺市の所蔵品だってお。なんで堺市はこんなにミュシャ持ってんだ? 
とはいえ、「スラヴ叙事詩」の関係で、いつもの甘々萌え萌えアール・ヌーヴォーとはちょっと違う傾向にも積極的だ。「プラハ市民会館」の柱の下絵。スラヴもの作品いろいろ。「『スラヴ叙事詩』展」なんてポスターもあって、かの絵の中にいたスラヴ娘をピックアップした作品。切手あり、下絵あり。実はミュシャの素描や下絵は、しばしば完成品を上回るんだお。手を抜かずに見ようぜ下絵。それから混んでる売店があっておしまい。

ここで面白いのは(別に面白くねーか)「ミュシャ」って現地発音じゃ「ムハ」に近いらしいんで、そっちを使いますみたいなことが最初に書いてある。でも途中途中の解説では「ミュシャ(ムハ)」になっていたり、「ムハ(ミュシャ)」になっていたりと恐らくは担当ごとにバラバラ状態だぞHAHAHA。ここはアレだな「クラーナハ展」として従来の「クラナッハ」を完全に締め出しちゃった西美を見習ってほしかったな。まあ「ムハ展」じゃ客がミュシャだと気づくか分からんとか来ないとか文句言うとかあるかもしれんが。

6月までやってて結構会期長いし、絵もデカいし混んでても大丈夫かなあ、とも思うんだがやっぱし早く行った方がいい。
http://www.mucha2017.jp/

|

« 「田沼武能肖像写真展」&「お蔵出し! コレクション展」(練馬区立美術館) | トップページ | シャセリオー展(国立西洋美術館) »