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2017年6月15日 (木)

美術館でナンパはできるのか

なんでも「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ」なんて記事だか文章だかが話題になっていて、そういえば私は10年ぐらい前に「モテる美術鑑賞」というフリーペーパーをコソコソ書いていた時期があり、Vol.5に「美術館でナンパ」の回がありました。いま読み返してもあまりにバカバカしいので、ここで全文公開してしまえ。

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ここ(Vo.4)まで読んできて、諸君には湧き上がる一つの疑問があると思います。
 美術館でナンパはできるか?
 今回はこの大問題について書きましょう。はい、普通はできません。なぜなら、いくらお嬢様が一人で美術館に来てたって、それは美術鑑賞に来てるのであって、ナンパされに来てるわけではないのです。そもそも何て声をかける気ですか?
「ねえ、お茶しない?」
 入場料のかかる美術鑑賞を放り出して、見知らぬ野郎とお茶しに行くバカ女はおりません。鑑賞中じゃなくて、見終わってからとか、外の売店とかで声をかければいいじゃんと思うかもしれません。ただ、それでは普通のナンパです。君がイケメンで知性的で優しい雰囲気ならいいのですが、恐らくサカリのついたケダモノが顔に出てしまって、危険人物とみなされてしまうと思います。いや、でも、ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たるかもしれん。君にノコノコついていく娘もいるかもしれん。でも君についていくということは、誰にでもついていく。他の男はもちろん、キャッチセールスや新興宗教にもノコノコついていくということで、つきあった後で君が苦労することは目に見えています。

 従って、君は次のような手段を取るとよいでしょう。美術館に入ったら、観客の中で最も若くて美しいお嬢様を探すのです。親付きでもかまいません。また、その際に、なるべく胸の大きい人を探しなさい。次に、君は、そのお嬢様の前におもむろに立ち、素早く両手を伸ばし、お嬢様のふくよかな両胸を思い切りつかみなさい。もちろん通報されると思いますし、ムショに入るかもしれません。でもいいじゃないか。君は美術館に来ている巨乳のお嬢様の胸をワシづかみできたんだぜ。その思い出だけで一生、生きていくんだ。どうせ君の人生なんてこれ以上のことは起こらねえよ。
 という、ミもフタもない真実はさておいて、多少マジな話をすると、一人で来てるお嬢様だって、きっかけさえあれば誰か素敵な男性と美術のお話ができて、カレシにならないかなあ、ぐらいは思っているはずです。

 何か不自然でないきっかけはあるのか?
 はいはい、意外と簡単にあるのです。大抵の美術展には「ギャラリートーク」というのがあって、学芸員が展示品の解説をしてくれます。客は流動的に集まっているので、ターゲットを見つけたらその隣に立つことも簡単。集まっている以上、隣に声をかけるのも、そんなに不自然ではない。ただ、問題は、何て話しかけるか?
「終わったらお茶しない?」
 だから、普通のナンパは貴様には無理だっての。ここは一つ、モテる美術鑑賞的な手段でいきましょうよ。知識を持たずとも会話の肥やしとなる美術作品を選ぶ必要があるのです。
 時計が溶けてる絵でおなじみのサルバドール・ダリ。彼の絵は偏屈的で意味ありげな、いろんなものがこまごまと描かれているのです。従って、君はド近眼のふりをして、絵を凝視し、ゴミがくっついたような細かい部分を見つけて、おもむろに隣のお嬢様に話しかけるのです。
「すいません、あれ何が描いてあるのでしょう? ちょっとここからじゃ見えなくて……」
「自転車に乗っている人ですが」
「どういう意味なんでしょうかね? 走って逃げたいとか」
「そうですね、私としては……」
 という感じで、話が自然に進むはずです。あとは前回の抽象画のように、ひたすら自分が見た印象だけ話せばいいのです。何も考えることはありません。会話が途切れないまま見事、出口までたどり着けば、茶も行ける。ホテルにも行けるかもしれません。
 ダリの他にも、エルンストとか、キリコとか、デルヴォーとか、近現代美術の連中には、何か意味ありげなものを描いて喜ぶ画家は少なくないです。展示作品を事前にチェックして、どの部分に注目するかを決めてから挑むのも一興。

 しかし、筋金入りのお嬢様には、これでもまだ警戒されるでしょう。従って君は、やや強引な手段を取る必要があります。
 気持悪い絵の前で、気持悪くなって、お嬢様の方に倒れてしまうのです。お嬢様なら、まさか急病人を放っておくわけありません(放っておくならそれはエセお嬢様です)。
「あの、どうなすったのですか?」
「す、すいません。あの絵を見ていたら、気分が悪くなって」
「あら、大変」
「あなたは平気なんですか?」
「あの絵を見ていると、画家の悲しみが伝わってくるようですわ」
 という感じで話が進むはずです。(※お嬢様の方が倒れたら君が介抱すればよいのだぞウヒヒヒ)
 そんな気持悪い絵を描く人がいるのか? はい、一人いるのです。H・R・ギーガー?(※映画「エイリアン」のデザイナー) 惜しいけど違うな。その画家の名は、「ズジスワフ・ベクシンスキー」といいます。ポーランドの画家です。廃墟のような、幻想世界のような、死体のような、ゾンビのような、見ていて思わず背筋が冷たくなってうえええええええ、となるキモチワル~イ、しかし美術館に飾るにふさわしい美しい絵画作品を描いております。うーん、実物を見たいもんだぜ…… でもやっぱりキモチワルイから、展示されないんだろうなあ……じゃあダメじゃん。

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ちなみに補足すると、例の記事みたいに「知識をひけらかす」のはやめた方がよいと思います。あとギャラリートークですが、学芸員の顔はちゃんと立てましょう。「俺の知識で論破してやる」なんてのはもってのほかです。印象が悪くなるだけでモテません。
もう少し補足すると、私は美術館でナンパしたことはありません。たとえできても気の利いたメシ食うところなんか知らんので、あとが続かないです。

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