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2017年7月23日 (日)

折元立身 From"Carrying series"(青山|目黒)

昨年、最も素晴らしいと思った展覧会が、川崎市市民ミュージアム「生きるアート 折元立身」展であったが、某アンケートランキングでベスト50にも入らないというマジ信じがたい状態に目が点になった。「アートが好きですぅ」なんて言いつつ、おめーらいったいどこに目ぇつけてんだよっ。まあ本人も「もう日本は嫌になった」とか「今更評価されてもトゥーレイト(遅すぎ)」なんて言ってるんだが。実際のところ海外での知名度や評価の方が高いようだ。

ギャラリー「青山|目黒」って初めて行ったんですけど、目黒にあります。じゃ何で「青山」かっていうと青山さんって人がやってるらしい。ツイッターでも別に話題でないし、私も折元さんのパフォーマンスがある当日に初めてこの企画を知ったぐらいなんで、お客いるのかな、なんて思ったりしたが、これがなんと入りきらないぐらいギッシリで、外国人の割合も高い。おまけにNHKまで取材に来ている(「ハートネットTV」という福祉番組。7/31放送予定)。まさに知る人ぞ知る、ですな。 

展示内容は後述するとして、まずパフォーマンスなんですけど、折元さんが抱えている箱に覗き穴がついていて、そこから覗いて見ると、折元さんの母「アートママ」の生活映像が見える。一人一人見ていって「何が見える?」と訊いてくるので、答えると、それに対して「あーいいところ見たねー」とか何とか言ってくれたりするというコミュニケーション型。私はなんか自分がパフォーマンスやる時より妙に緊張してしまい、「えーと、ストローで何か飲んでます」「ええっ? もっと大きな声で」などと言われる始末。ハ、ハハハ…… すごい人数全員やるので、一人何十秒かでも全部で1時間近くかかった。折元さんも立ちっぱなしで大変そうだったけれど平然としている。終わったら、ギャラリー内で折元さんのスピーチがあり(これも椅子の上に立つ。立ちたいそうです)、今度都知事選に出るとかジョークを飛ばしつつ、今回の「Carrying series」の説明があった。

何かを意味なく運んで街を歩いたら面白いんじゃないか、ということで、大きな段ボールにパンを満載して背中に背負って運んだり、古着をつなげて引きずって歩いたり、段ボール箱に片足突っ込んで歩いたり、他にも背中に煙突の作り物、タイヤ、あるいはロープでつないだバスタブを引きずるなどで歩く。今回の展示ではその写真や、映像が紹介されている。何をやっているのか? 何か意味があるのか? 君が何か意味を思いついたら、それが意味なのだ。誰もやらなかったこと、これがアートなのか? と思うようなことをやるそうだ。かつてフルクサスに所属し、その場で起こる「ハプニング」を基盤として、「パン人間」などのパフォーマンスが生まれていった。が、「アートママ」シリーズなどでは、母親との強い絆が発想の源泉にあり、この生活との一体感が、単なる「面白い行為」ではなく時に鋭い切れと凄みを感じさせる。「パン人間」にしても海外ではキリスト教的な意味が加えられるので、そのパフォーマンスのリアル感は私達とは違うだろうし、それは想像するしかないかもしれない。

折元さんと母親の関係は、単に「お母さん大好き」だけではない。日本に嫌気がさしても母親の介護のため、そうそう海外に移住もできない。介護では夜中に何度も起きるし、お世話も大変。夏のバカ暑い日に車いすで喫茶店まで連れて行った時はさすがに「く、く、くそう……」とか思ったそうで、それが車いすを破壊するパフォーマンスを生み出す。愛だけではなく憎しみもある。しかしそれは「スイカにつける塩のようなもの、より強く甘み(愛)を感じられるようになる」と言う。川崎の展示では、最初にその深い絆である母親をテーマにした「アートママ」シリーズをこってり見せられ、その次のコーナーが「500人のおばあさんの食事会」だった。これは文字通り、舞台は海外の美術館なんだけど、500人のおばあさんが一同に集まって楽しく食事をするだけなのだ。時に歌ったりもする。しかし、アートママを見た後にこれを見ると妙に感動する。いや、なぜだ? この沸き上がる感動は何なのだ? 生きることを謳歌する姿が眩しいのか? とにかく何だか分からないが、このリアルから生まれてくる表現がもたらすいい知れない何か、これが「天才」折元立身の表現世界だ。

アートママこと折元男代さんは今年春98歳、老衰で亡くなったとのこと。会場で折元さんは「とても寂しい」と言っていたが、同時に「活動はやめない」とも宣言。8月26日から富山県美術館で企画展、10月だったか、岡本太郎美術館であの「処刑」のパフォーマンスがあるらしい。まだまだ生み出し続けるであろう「天才」から目を離せないぞ。日本での知名度は高くはない。でも、せめて君だけは注目していてほしい。

青山|目黒
http://aoyamameguro.com/

富山県美術館
http://tad-toyama.jp/

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