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2017年7月30日 (日)

吉田博展(損保ジャパン日本興亜)

行ったら結構並んでる。え? 並んでるの? そんなメジャーな人だっけ、というか私は知らんかった。見ればまあ、なるほどこりゃ口コミでも人増えるかもしれんという感じのものではある。版画で有名みたいなんだけど、油彩も水彩もあって、特に水彩は光に弱いんで前期後期で入れ替える(前期今日までだってお)。

最初に初期の水彩とか鉛筆画とか、水彩「土瓶と茶碗」んん~写実~♪ これ前期だけだけど後期も何かイイものが出るであろう。「花のある風景」も道に落ちる影が実に自然なもんで、このスケッチ力はただもんじゃねーな、というのがまあ誰でも分かると思う。

その後、外遊が多かったとかいう話はさておき(説明あんまし読んでない)。前期のみ出てる水彩が続く。「湖の眺め」なんてモネ風ですかね。「霧の風景」すげーこりゃ霧だわ。水彩すげー(ボキャ貧)。で、この辺から油彩もチラホラ。夏目漱石の「三四郎」に出てきた「ヴェニスの運河」がいらっしゃ~い、三枝じゃねーよ。ええと、油彩はもちろんうまいけど、水彩に比べると普通。「堀切寺」とか東山魁夷っぽいんで、あーそれで混んでるのかなと思ったり。東山魁夷って人気だけど私はあんまり食指が動かんもんで。人物も描く「月見草と浴衣の女」うん、普通にうまい。えーそれから山の絵なんか増えてきて、そう登山やってて山の画家でもあるんだよ。この企画展もモンベル協力だし。あーなんか山登る人達が絵を見に来て、それで混んでるのかなと思ったり。バラの絵の連作が普通にうまいなと思ったり。「雪景」とかいうのを見てあー水墨もやるのかと思ったり。んで、愚かにもこの辺でこの画家を見切った気になっていたが、実は本領はこの後なのじゃ。

木版画をやるようになった。江戸浮世絵でも新版画でもない、とにかくリアルなヤツ。画題も日本ものだけじゃなくて「グランドキャニオン」とか「アゼンスの古跡」とか「スフィンクス」とか、え? これが版画なのか? という自然なグラデーションを駆使した仰天もの。木版画は色の数だけ摺るんだけど、江戸浮世絵レベルの数回どころか、十数回、中には百回とかいうとんでもないのもあるらしい。人物もあり「鏡之前」という裸婦像、あと「こども」……マジこれ版画かよっ! ううむ、どれもハイレベルだ。そうだなあ、江戸浮世絵版画ではもちろんないが、小林清親の光線画に近い感じはある。あれをもっと写実っぽくしたものか。こりゃまあ人気も出ますなわあ。とにかく木版とは思えん作品群には君もビックリさ。

戦争画が少しあって「急降下爆撃」とか「空中戦闘」とか、解説にも書いてあるけど、ただの戦闘の絵じゃなくて、地面が真下に見える空中の面白さを描いたもの、という感じがするね。

水彩と木版に驚け。
http://www.sjnk-museum.org/program/current/4778.html

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2017年7月23日 (日)

折元立身 From"Carrying series"(青山|目黒)

昨年、最も素晴らしいと思った展覧会が、川崎市市民ミュージアム「生きるアート 折元立身」展であったが、某アンケートランキングでベスト50にも入らないというマジ信じがたい状態に目が点になった。「アートが好きですぅ」なんて言いつつ、おめーらいったいどこに目ぇつけてんだよっ。まあ本人も「もう日本は嫌になった」とか「今更評価されてもトゥーレイト(遅すぎ)」なんて言ってるんだが。実際のところ海外での知名度や評価の方が高いようだ。

ギャラリー「青山|目黒」って初めて行ったんですけど、目黒にあります。じゃ何で「青山」かっていうと青山さんって人がやってるらしい。ツイッターでも別に話題でないし、私も折元さんのパフォーマンスがある当日に初めてこの企画を知ったぐらいなんで、お客いるのかな、なんて思ったりしたが、これがなんと入りきらないぐらいギッシリで、外国人の割合も高い。おまけにNHKまで取材に来ている(「ハートネットTV」という福祉番組。7/31放送予定)。まさに知る人ぞ知る、ですな。 

展示内容は後述するとして、まずパフォーマンスなんですけど、折元さんが抱えている箱に覗き穴がついていて、そこから覗いて見ると、折元さんの母「アートママ」の生活映像が見える。一人一人見ていって「何が見える?」と訊いてくるので、答えると、それに対して「あーいいところ見たねー」とか何とか言ってくれたりするというコミュニケーション型。私はなんか自分がパフォーマンスやる時より妙に緊張してしまい、「えーと、ストローで何か飲んでます」「ええっ? もっと大きな声で」などと言われる始末。ハ、ハハハ…… すごい人数全員やるので、一人何十秒かでも全部で1時間近くかかった。折元さんも立ちっぱなしで大変そうだったけれど平然としている。終わったら、ギャラリー内で折元さんのスピーチがあり(これも椅子の上に立つ。立ちたいそうです)、今度都知事選に出るとかジョークを飛ばしつつ、今回の「Carrying series」の説明があった。

何かを意味なく運んで街を歩いたら面白いんじゃないか、ということで、大きな段ボールにパンを満載して背中に背負って運んだり、古着をつなげて引きずって歩いたり、段ボール箱に片足突っ込んで歩いたり、他にも背中に煙突の作り物、タイヤ、あるいはロープでつないだバスタブを引きずるなどで歩く。今回の展示ではその写真や、映像が紹介されている。何をやっているのか? 何か意味があるのか? 君が何か意味を思いついたら、それが意味なのだ。誰もやらなかったこと、これがアートなのか? と思うようなことをやるそうだ。かつてフルクサスに所属し、その場で起こる「ハプニング」を基盤として、「パン人間」などのパフォーマンスが生まれていった。が、「アートママ」シリーズなどでは、母親との強い絆が発想の源泉にあり、この生活との一体感が、単なる「面白い行為」ではなく時に鋭い切れと凄みを感じさせる。「パン人間」にしても海外ではキリスト教的な意味が加えられるので、そのパフォーマンスのリアル感は私達とは違うだろうし、それは想像するしかないかもしれない。

折元さんと母親の関係は、単に「お母さん大好き」だけではない。日本に嫌気がさしても母親の介護のため、そうそう海外に移住もできない。介護では夜中に何度も起きるし、お世話も大変。夏のバカ暑い日に車いすで喫茶店まで連れて行った時はさすがに「く、く、くそう……」とか思ったそうで、それが車いすを破壊するパフォーマンスを生み出す。愛だけではなく憎しみもある。しかしそれは「スイカにつける塩のようなもの、より強く甘み(愛)を感じられるようになる」と言う。川崎の展示では、最初にその深い絆である母親をテーマにした「アートママ」シリーズをこってり見せられ、その次のコーナーが「500人のおばあさんの食事会」だった。これは文字通り、舞台は海外の美術館なんだけど、500人のおばあさんが一同に集まって楽しく食事をするだけなのだ。時に歌ったりもする。しかし、アートママを見た後にこれを見ると妙に感動する。いや、なぜだ? この沸き上がる感動は何なのだ? 生きることを謳歌する姿が眩しいのか? とにかく何だか分からないが、このリアルから生まれてくる表現がもたらすいい知れない何か、これが「天才」折元立身の表現世界だ。

アートママこと折元男代さんは今年春98歳、老衰で亡くなったとのこと。会場で折元さんは「とても寂しい」と言っていたが、同時に「活動はやめない」とも宣言。8月26日から富山県美術館で企画展、10月だったか、岡本太郎美術館であの「処刑」のパフォーマンスがあるらしい。まだまだ生み出し続けるであろう「天才」から目を離せないぞ。日本での知名度は高くはない。でも、せめて君だけは注目していてほしい。

青山|目黒
http://aoyamameguro.com/

富山県美術館
http://tad-toyama.jp/

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2017年7月22日 (土)

ベルギー奇想の系譜(Bunkamuraザ・ミュージアム)

今度どこか海外に行っていいならベルギーだな、と思っているところの、理由がまさにこれなんだぞって感じで。愉快なベルギーの奇想じゃい。

年代順で、最初は15-17世紀のフランドル美術で、要するにヒエロニムス・ボス……なんだけど、さすがに貴重なボス本人じゃなくて工房とかボス派とかのパチモンばかりが来ている……が、パチモン呼ばわりはもったいないほどエキサイティングな奴らが来ているんで嬉しいぢゃないか。だいたいテーマが「聖アントニウスの誘惑」つまり、アントニウス君を異形の怪物で怖がらせ、エロい女で誘惑しましょう、という画家にとってやりたい放題の定番テーマだったりしてな。それにしてもボスの影響はこんなに大きかったのかというくらいボス風味の絵画がずらずら並んでいるもちろん知らんヤツの。しかも結構うまいよ。目玉はポスターにもなっているボス工房「トゥヌグダルスの幻視」。工房かよ、って侮ってはならぬ。時代的にはボス生前のもんらしいし、ボス作といったってシロート(オレ)にはこれで十分さ。結構細かいところまで描いてあって、例えば右上に火事の様子があるが、そこにシルエットで人が何人か描いてある。その部分だけでもちゃんと絵になっている。オレは単眼鏡持って行ったけど、君も持っていれば忘れずに持って行った方がいいぞ。

それから次はボスの影響を受けたピーテル・ブリューゲル(父)。そうっ、あのっ、「バベルの塔」の彼。彼が原画をやって、だれそれが版画にした。これまた「聖アントニウスの誘惑」から始まる仰天もの。うむ、確かこのあたり「バベルの塔」展でも出ていたんだけど、時間なくてスルーしちゃったから、ここでまた見れるのはありがたい。なんかアニメもあるし。「七つの大罪」シリーズの「怠惰」が何ともイイよな。大抵はハイテンションで描かれる異形なヤツラが全員グータラしている。あと、ボスもそうなんだけど「顔建物」が描かれているものが多い。文字通り建物が人の顔になっているもの。あるいはその逆か。先の「トゥヌグダルスの幻視」からしてそうだもんな。それからヤン・ブリューゲル(父)の油彩などを挟んで次はルーベンス。あのルーベンスが奇想なんてと思うかもしれないが、さすが実力派で描くとリアル感がパネエ。人動物入り乱れるド迫力系が得意で、「ライオン狩り」(確か再会)、「カバとワニ狩り」のぐちゃぐちゃ感はいいですな。

ここで一気に近代へ。19世紀末から20世紀初頭のベルギーだ。最初はフェリシアン・ロップス。名前は時々見るのだが、まとめてみるとほほぅ、なかなかエロいのが得意だな。「娼婦政治家」は風刺もの。目隠しされた裸婦と豚が高尚なものを踏みにじっている。政治家の風刺らしいんだが、あんまそう見えないな。あと、ここにも「聖アントニウスの誘惑」があって女体が迫ってくる。印刷ものの「毒麦の種を蒔くサタン」……ってこれミレーの種蒔く人のパロディではないか。次のフェルナン・クノップフは有名どころなんだけど、他が個性的で大騒ぎなので、マイルドでおとなしく見える。「ブリュージュにて、聖ヨハネ施療院」の水面に映る建物の死んだ静けさに注目だ(※8/21まで)。次がジャン・デルヴィルでオレ的には今回これが一番よかった。「赤死病の仮面」いやー怖いですねえ、でも何やら美しいですねえ。色もダークで妖しいですねえ。「レテ河の水を飲むダンテ」これはどこかで見たが、対照的に非常に明るい。女性像がキレイだ。「ステュムパーリデスの鳥」これは……カラスの大群が人を食おうとしているのか? 分からんし解説もないが、異様で怖い光景にも関わらず、画面は非常に美しくまとまっているのだ。気に入ったぜデルヴィル! サードレール「フランドルの雪」これも再会だが、地上の白い雪と、黒い空の対比がまるでマグリットの「光の帝国」風な印象を持つ。次にスピリアールト。おおスピリアールト。「堤防と砂浜」暗い、寂しい、でも好きだ。あー、以前ブリヂストンでやっていた「スピリアールト展」でもっとちゃんと見とけばよかった。いや、ちゃんと見てはいたんだが、また見たいよな。またやらないかな。誰かスピリアールト展やってくれ。それからおなじみアンソール。いやー強力なヤツ続出ですな。油彩が結構出ている。中でも「オルガンに向かうアンソール」はアンソールの魅力がイパーイ。何が? 顔だよな。アンソールは仮面のようだが味のある顔を描く。この絵には顔がいっぱいだ。あと、色使いがいいね。モノクロ版画ではオレの好きな「人々の群れを駆り立てる死」が出ている。群衆の上を飛ぶ大鎌を持った骸骨の影。うむ、奇想っぷりは版画の方が大きいかな。

20世紀から現代まで。定番デルヴォー。今回はスケッチブックが出ていて、ナマの描線が見れるぞ。あと「海は近い」という姫路所有の油彩。デルヴォーの中でもオレの好きな何枚かに入る傑作。何度見てもイイ。定番マグリット。こっちは変わり種は特になかったようだが、最も有名な「大家族」が出ている。なぜこの絵を宇都宮が持っているのか不思議だ。それから時代は現代に。磔のキリストでプレッツェル形状を作るウィム・デルヴォワ「プレッツェル」、骸骨が頭でティンパニー打ってるレオ・コーペルス「ティンパニー」、デカい頭が気持ち悪いトマル・ルルイのブロンズ「生き残るには脳が足らない」、何やら乗れる巨大レトロフューチャーを作ったパナマレンコ「スコッチ・ギャンビット」。猫にまじめにインタビューして、もちろんまじめな答えは返ってこない音声作品、マルセル・ブロータールス「猫へのインタビュー」など、奇想の末裔で迫る現代ものもいろいろだー

おなじみの再会も多いがベルギーの奇想を一望できる。初めてなら早く行かれたい……というかここは金曜土曜は夜9時までやってるから、そこが狙い目か。あと作品保護のため会場はめっぽう寒い。冷え性の人は入り口でケットをゲットだ。
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_belgium/

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2017年7月16日 (日)

不染鉄(東京ステーションギャラリー)

「ふせんてつ」と読みます。没後40年、21年前に回顧展があっただけの日本画家、だそうで。もちろん知らんかった。ウワサ(ツイッターの検索ぐらいだが)によれば、なかなかいいようなんだが果たして……

最初の「暮色有情」という掛け軸……むっ、なんか今まで見たことない感じだぞ。日本家屋の家並みを俯瞰して(見下ろして)いるんだが、パースがうまいことかかっているのがちょっと日本画っぽくない。それでいて輪郭の曖昧な朦朧(もうろう)体。それから家の絵が続くが、朦朧体じゃなくてむしろ線画メインになってくる。しかも細かい。細密画っぽい。ペン画かと思ったが筆らしい。「雪之家」なんてのはつららが下がっているのだが、単眼鏡で見たら、つららが結構リアルな質感なんだな。あーそうそうガラスケース入りも多いので、単眼鏡あった方がいいね。あと、軽く描いた小品もあり「伊豆風景」なんか汽車がカワイイ。巻物「思出之記(田圃、水郷、海邊)」は家々イパーイ。

次は山水画いろいろ。山水画でも線描が細かくてかなり力入っている。朦朧のヤツもあるけどね。ただまあ、ここはものすごいって感じではないな。コーナー最後の「聖観世音」の線描はかなり繊細にして無駄がないんで、スゲーとは思ったりするが。

階が変わって、奈良とか富士山がテーマになってくる。薬師寺東塔に惚れ込んで、真横からパースもかけず、細かい描写をする。しかもシンメトリー。大仏殿もシンメトリーですな。「春風秋雨」は四幅対で、線描山水、富士山、薬師寺東塔、大仏殿というおいしいテーマ4つが一度に楽しめるぞ。しかし、次の部屋の大きな絵、ポスターにもチラシにもなっている「山海図絵(伊豆の追憶)」を見て……ナンジャこりゃあ! いや、ポスターとか見てた限り、ちょっと変わった富士山の絵かな、ぐらいに思っていたが、実物を見てその異様さにぶっ飛ぶ。まず線描写が写実的にして細かい。マジ細かい。草木も日本家屋の家並みも丁寧に書いている。手前は海だ。もっと手前にゃ魚がいるから海の中まで描いてある。家並みの向こうに富士山……その向こうは雪国で家も見える。いや、スケールおかしいだろこれ。この富士山の標高は数十メートルじゃないか? いや、でも富士山に見える。富士山以外のなにものでもない。めちゃくちゃマッドな構成ながら、丁寧な写実で不自然さを蹴散らして絵として成立させてしまうセザンヌもびっくりなヤツだ。この絵だけで元が取れる。ポスターじゃダメだ。本物を見ろ。この絵を見て驚かないヤツは絵画鑑賞には向かないから水族館でデートでもしてた方がいいと思う。他にも富士山いくつかあるけど、こいつを見たあとではマッドが足りない。普通だな。

海の絵を描いている。青いのかと思ったら墨絵なもんで黒く描いているんだな。中でも「南海之図」むううう……これも異様な感じがするな。下半分黒い海。上の方に島……なんだけど、この島が岩だらけというかフラクタルというか、結晶みたいというか、とにかく妙な形状で存在感ありありで迫ってくるぜっ。他にも異様な島ものあるよ。

それから回想の風景とか。「山」は木がいっぱい。絵はがきなどもあるが、絵はがきサイズのまっとうな作品って感じで……この辺になると疲れてきてボケーと見てたんだが、今リストを見ると絵はがきのタイトル「ジキルとハイド」とか「村山槐多死す」とか面白そうじゃないか。注意してなかった。「古い自転車」にゃポエムが書いてある。それから「思い出の海の家」なんぞは木の板でできている。「海村」は刺繍だな。着物もある。なんかマイナーな人の割には手広いぞ。
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201707_fusentetsu.html

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2017年7月 9日 (日)

クエイ兄弟 ファントム・ミュージアム(松濤美術館)

去年だったと思うが、神奈川県立近代美術館の葉山館でやってて、時間かけてわざわざ行ったのです。なんだー渋谷に巡回してくるのかー待ってりゃよかったー と思ったが、今日行ったところ、会場スペースの広さがやっぱし違う。松濤は広くないので、映像コーナーは一つにまとまっているし、展示コーナーもコンパクトになっている感じだ。でもアニメーションに使われたデコール(人形とか舞台装置)は一通り出ていて、おいしいところは楽しめる感じだ。

最初の、初期のドローイングを再見して、「喜びの電気拷問」とか「死体の学校」とか屈折したタイトルと内容の絵がやっぱり好きで、暗く神秘的で妖しい世界を私もまた文章だけで描きたーいと思うわけですよ。ところで、今回あらためて、おやっ、と思ったのは「ペナルティーキックを受けるゴールキーパーの不安」ゴールキーパーだ! 縞柄のシャツを着ている。絵の全体は暗い感じだが、そこに唐突に縞柄のゴールキーパーである。「楡の木の向こうからトランペットの音が」これにも縞柄ゴールキーパー。先日、実家に行った折りに筒井康隆の「虚構船団」という小説があり、いや、私が住んでた頃に買ったんだけど、筒井の最高傑作だと思っているのです。それを持ってきて再読してた。長いだけでなく結構読むのに苦労する小説なんだけど、そこに実は、唐突に出現する縞柄シャツのゴールキーパーというのが登場するのだ。読んだ時に、なんで縞柄なんだろう、と思ったが、ここでも縞柄だ。ふうむ、昔はそうだったのか? あるいは、実は筒井がこの絵を見ていてインスピレーションを受けたとか、という適当な妄想もまた楽しい。あとは「憎悪を行使する恋人」も木から煙がモクモクという愉快なもんだ。それから参考出品なんだけどアンソニー・バージェス「時計じかけの遺言」おや、この人「時計じかけのオレンジ」の作者じゃないか。こんな暗くて妖しい絵も描いてたのか。前は気がつかなかった。

階が変わって、アニメーションで使われたデコール。どれもわざと壁を汚して年期の入った感じにする技が冴えている……って書いたよな。で、これらと同じのはアレですね、ジョゼフ・コーネルの箱シリーズ。時を箱の中に閉じこめるのだ。「プラハの錬金術師」のデコールに、現在西美でやってるアルチンボルドが使われている。そういえばこの錬金術師の顔もアルチンボルドの「司書」ってやつと同じようだな。頭が開いた本でな。あと、撮影可のデコールが入り口んところに一つある。おなじみ映像のダイジェストもあって、ボリュームは葉山より少ない感じだけど、あらためて見て、アニメーションもいいが、音楽も音響も結構凝っているんだね。音もクェイワールドの重要な要素なんだなあ。しかしまたいろいろ見たくなったぞ。

今回のお目当ては実は地下でやっているDVD上映会なのだ。割と新しい(2012年)「変身」を見てきた。もちろんこれカフカ「変身」の映像化。結構版権が厳しくて見れる機会がめったにないんだって。見たところ画面が全体に暗く、DVD映像じゃちと苦しいんじゃなかろうか。内容はクェイの若い頃(?)と違ってまったり系。もちろん幻想的でモノクロ的(モノクロというわけではない)雰囲気十分だが……見てるとボケーとしてきて眠気をもよおす。隣がなんと子連れで、子供が「こわい」を連発。そりゃー怖いだろう(「ストリート・オブ・クロコダイル」ほど怖くはないが)、なじぇチビッコを連れてくる? まあ親が見たかったんでしょうなあ。しかし30分前から整理券配りますってことだが、整理券に番号がついていて、10分前ぐらいに番号順に案内……じゃないんだな。整理券配ると同時に中に入れちゃって、席取って下さいとのこと……ん? じゃあなんのための整理券なのだ?
おなじ渋谷のシアターイメージフォーラムで、7/8から映画上映もやってるぞ。

建物の雰囲気と合っている。
http://www.shoto-museum.jp/exhibitions/173quay/

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2017年7月 1日 (土)

アルチンボルド展(国立西洋美術館)

アルチンボルドの奥さんはナイチンゲールって言うんだぜぇ。嘘だけど。しかし、アルチンボルドとは、面白いところに目をつけましたな。だまし絵っぽいから夏休みのキッズも引っぱってこれる。混みそうなんで早めに行くぞと小6の娘同伴で乗り込んだ。土曜午前でまーまー混んでる。でも絵の前にテンコ盛りということはなく、待ってりゃ最前列でも見れるくらいだ。
入っていきなり「四季」というのがある。1枚で四季。初めて見るな。樹木ヅラだな。もちろん例のいろいろ寄せて顔にしてるヤツね(寄せ絵)。それからいきなり下の階へ行って、自画像だとか。「紙の自画像(紙の男)」というのがあって、素描ながらこれがもう寄せ絵。紙でできてる。あと本人だけじゃなくて「アルチンボルドにもとづく」というパチモンも多い(先日のダヴィンチ&ミケ展みたいなもんですな)。そういえば時代的にダ・ヴィンチと同じようなもんなんで、なんとダ・ヴィンチの素描があったりするんだな「鼻のつぶれた禿頭の太った男の横顔」。このハゲーッ! いやしかしなんでこれが出てるんだ。ちょっとグロい顔に慣れておくためか。「植物の習作」もダ・ヴィンチだけど……まあこれは普通。娘も特に注目せず。なんでこれがあるのかと素朴な疑問。
それからアルチンボルドが雇われていた(んだよな?)、ハプスブルグ宮廷の展示で、肖像とか工芸とか。あー肖像なんてどうでもいいやーってんでロクに見てない……んだけど、一応「アルチンボルドに帰属」の肖像が並んでいたようです。普通の宮廷画家やってたんだ。工芸はきれいどころだがまあ適当に見た。
階段上がって、いよいよ次の間がメインディッシュ。「四季」の4枚、「四大元素」の4枚が揃っている。全部おなじみ寄せ絵にして代表作にして傑作。「春」は花、「夏」は……なんだっけ。果物だ。「秋」は実り、「冬」は枯れ木、「大気」は鳥、「大地」は動物、「水」は魚、「火」は火関係で寄せて顔にしてる。全部キモい……まあこれがキレイだって人もおらんでしょう。娘は「大気」を「とりあたま」と言って喜んでおった。確かに髪の毛の代わりに鳥だもんな。おもしろ絵に見えるが、世界の森羅万象をきっちり網羅して擬人化するという創作姿勢からすると、単なる遊び絵ではなくて、結構本気で……ほれ、例の「意識高い系」みたいなメンタルでやってたんだなあ、と感じる次第である(そんな解説もある)。それゆえ、他のパチモンとは完成度もテクニックも丁寧さもひと味違うぜっ。あとで「水」の模写が出てくるんだが、明らかに模写はパワーダウンしている。似たような寄せ絵を描いてるヤツも「しょせん遊び絵」みたいなチャラい姿勢が多々あり、誰もアルチンボルドにゃかなわない。それが分かるだけでも見た甲斐があるってもんです。
メインが終わると自然描写のコーナー。寄せ絵だからって手を抜いてないんだぞ。自然描写あってこその完成度なんだぞ、という意味でもここで動物なんぞを描いた絵を見せます。ここに先の「水」のパチモンがあるのだ。絵はほとんどアルチンボルド以外ね。それから「自然の奇跡」というコーナーがあり、アルチンボルドの描く顔じゃなくても実際エキセントリックな顔のヤツがいて、それが自然の奇跡と称されたって話。アルチンボルドの寄せ絵顔も、実はそういう方面の自然の奇跡はこんな感じじゃねえかって表現だったって可能性。で、出ている絵が「エンリコ・ゴンザレス、多毛のペドロ・ゴンザレスの息子」だとかで、顔一面に毛。ここで娘がこれはYouTubeで見たとか言い出す。珍しい病気の映像だとかで……そんなの見とるのか最近の小学生は。ヒカキンテレビか?
寄せ絵のコーナー。同時代のや追随者いろいろ。アルチンボルドレベルじゃないか、こういうのがなくっちゃ子供も喜ばねえ。しかしあるのが「男根による頭部」文字通りだ。まあ版画でマンガっぽかったが。アルチンにはかなわないので、チンあるで対抗だぜっ。娘はイチベツして立ち去った。あと「擬人化された風景」は風景が顔になっているもの。版画だけどなかなかよくできてる。「女性の頭部」「男性の頭部」いずれも人が集まって顔になっている。ぜんぜん国も時代も違うが、ここに歌川国芳を出してほしい。
それから職業絵とカリカチュアの誕生とかで。ダビンチの素描がまたあったりする。「グロテスクな二つの動物の頭部」。あと模写だけどタイトルが全部グロテスクななんちゃらで、でもまあグロってほどでもないな。お待ちかねアルチンボルドの油彩、「ソムリエ(ウェイター)」「司書」「法律家」うむやっぱりマエストロは力強いぜっ。あと上下絵という逆さにしても見れる絵「庭師/野菜」「コック/肉」庭師はともかくコックはテクニカルでよくできている。十分遊び絵であると同時にレベルの高い絵でもある。こういうマジな遊びは何か魔力的なものも感じますな。
遊び絵展だとかで1枚とか2枚とか見ることはあるけど、まとめてってのはまず無い。また、まとめて見て初めて分かる、こりゃ神秘の自然界との対峙なんだ、と、ちょっと意識高い系で迫る企画だ。
http://arcimboldo2017.jp/

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