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2018年1月 3日 (水)

熊谷守一 生きるよろこび(東京国立近代美術館)

まずここで言いたいのは、旧宅であったところの豊島区立熊谷守一美術館は、実に雰囲気がよい。入るとコーヒーのいい香りもする。美術館として大きくはないので、うまい酒を雰囲気のいい飲み屋でちびちび飲む感じ。一方この企画は、大量イッキ飲みである。いや、それはそれでいいんですけどね。

概ね年代順のようなテーマ順のような感じ。初期はとにかく画面が暗い油彩が多い。「蝋燭(ローソク)」なんて、人物が蝋燭で照らされているんだが、ラトゥールみたいにいかにも「光」ではなく、かといって野十郎みたいに炎に凝るわけでもなく、なんとなく照らしている感じ。傑作らしい「轢死」、夜の薄明かりの中に浮かぶ轢死の人物というショッキングなテーマ……のはずだがほとんどなんも見えねえ。何か見えた? それから熊谷守一美術館にあった「某婦人像」とここで再会。これ、いい絵ですよ。しかし、展示の性質上、絵のガラス面にオレの顔が映っちゃうんだな。あっちではそういうことはなかったと思うが。

画風はフォーヴのように荒々しくなる。がしかし原色ではなく中間色が多くフォーヴとはちょっと違うかな。「松林」とか荒々しいとメモってあるが、どんなんだっけ。とにかくたくさんあるんで、全部タイトルとメモだけで思い出せるわけでもない。しかし中でも「陽の死んだ日」。「陽」って太陽じゃなくて次男の名前ね。これ亡くなった子供の絵なのだ。荒々しいが生々しくはない。4歳で陽が亡くなった時に、彼のために何か残そうとしてその絵を描き始めたものの、これって絵を描いてるだけじゃんと思って嫌になり30分でやめちゃったとか。なまじテクニックがあるもので、悲しみの感情表現というより美術作品になっちゃっているんで、それでむしろ嫌になっちゃったんでしょうなあ。でも、この絵はいいよ。感情あるよ。あとはフォーヴの裸婦がイパーイ。裸婦だがラフだか分かんねえ、なんつって。シルエットみたいなのや、デザインっぽいものもある。中には「線裸」なんていう太い線描のなんじゃこりゃみたいな裸婦もある。「夜」というのが印象的で、これは先の「轢死」と同じテーマなんだそうだ。描いてあるものが分かるので、おお、こういう世界か、と分かる。

えー、次第に風景に移行。荒々しいものの中から、輪郭に赤い縁取り線を使うようになり、その線で塗り分けされるようにきれいにまとめられてゆく。荒々しくなくなってくるわけです。この変化がなかなか面白い。「チュウリップ」なんてのは風景じゃないがまだ荒々しやですな。「谷ヶ岳」や「船津」なんぞで赤い縁取り線が出始める。画面はシンプルになっていって「海」なんぞも実にシンプルでございます……ってどんな絵だっけねえ。同じようなものが延々と続くので、どんな絵だったか……もちろん実物見りゃ思い出すんだけどねえ。「御嶽」という絵ね、山の群青色が特徴ね。「漁村」で色分けが見事にキマり……ナビ派っぽい? 「草人」で久々にフォーヴをキメ、「金峯山」でとうとう赤い縁取りもなくなった。純粋にシンプルな絵になる。この頃、長女の萬を21歳で亡くしてしまう。その「萬の像」があり、「ヤキバノカエリ」という絵もあるが、これはシンプルだがドランの絵を元にしたとのこと。

かようにオリジナルかと思っていたが、元ネタがあるような絵も多いそうで、その紹介コーナーがある。「稚魚」なんてのはマティスの「ダンス」に似てるそうで、確かに近い。「笛吹く児」もマティスだそうだ(どんな絵だったかな)。それからシンプルも際立ってきて、中間色の背景に、対象物を特に中心を持たせず描き、動きのような効果を与えるという手法になる。「雨滴」というのがなかなか傑作。雨滴が餅っぽいが、何ともおもしろい。「鬼百合に揚羽蝶」もそれぞれに躍動している感がある。「蝶」の黄土色の中間色背景に白い蝶は得意技。えええとそれから裸婦がいくつかあったよな。もうシンプルで顔のないヤツラが。書が並んでいて(あんまし見てない)、次に猫がズラッと。ここは壮観だ。にゃーにゃー。広告ポスターになっている「猫」は塗りの色がきれいだ。やっぱ本物はイイネ。「白牛猫」なんていう白いヤツもいる。

それからシンプルも極致になり、「黄菊」のもう黄色の塊だけの究極感、「向日葵」も超シンプル。「雨水」は水が平面になっている。「群鶏」なんて、なんだこれはイモか? みたいなシンプルさ。「少女」はいきなり人物のデカい顔で唐突だが、鼻だけピカソみたいな感じ。だんだん抽象っぽくなってきて、「鯉魚群遊図」はマティスの抽象っぽさに近い。「泉」はカンディンスキーか、「薔薇」は葉が思い切り三角形、「宵月」はマティスの切り絵っぽい。「夕暮れ」や「夕映え」の丸模様で長い旅もおしまいなのだ。

画風の変遷が楽しい。点数は多いが小品が多いので次々見ていける。気に入った人は豊島区立熊谷守一美術館もおすすめ。
http://kumagai2017.exhn.jp/

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