« 五木田智央 PEEKABOO(オペラシティアートギャラリー) | トップページ | 現代美術に魅せられて(原美術館) »

2018年5月 2日 (水)

池田龍雄展(練馬区立美術館)

「戦後美術の現在形」というタイトルも付いております。90歳近くでまだ現役であります。元々特攻隊員だったそうで、戦時中のお国のために死ぬ教育を受けてきたが特攻隊の訓練中に終戦。世の中が一気に民主主義化して、本人は軍国主義者の烙印を押されてしまったそうで、権力にさんざん振り回され、頭にこないわけはない。
 
……という反権力の絵画からスタートする。「第0章 終わらない戦後」終戦間もない頃だけでなく、2010年作なんてのもあるので、今も変わらず権力へ向けた目は持っているのだ。「にんげん」は昭和天皇がモチーフで、なんともやりきれなさが伝わってくる。「僕らを傷つけたもの 1945年の記憶」は、敗戦前に爆撃される人々。力で押さえつけられるあまりの恐怖。戦争に勝てばよかったのか? いやいや、それだとこの恐怖を誰かに与えることになるではないか。「大通り」は虫のような戦車の絵。「散りそこねた桜の木」は2010年作。日の丸と死のイメージで実に重たい。
 
「第1賞 芸術の政治の狭間で」ここからまあ時代順。戦後間もない頃の素描があるがパウル・クレーっぽい。あと、この頃の暗いシュールレアリズム系絵画がいくつも並ぶ。この手は板橋区美術館がよく持ってて、時々展示してる感じだな。嫌いじゃないぞ。非常に強い怒りややりきれなさなどの感情が絵に込められていて、しかも手法がシュールときた。なので、時にピカソを超えている絵があると思う次第である。あと、ルポルタージュ絵画といって、現地に取材に行って描いたものも多い。「綱元(《内蔵》シリーズ)」は、どこぞの軍用施設建設反対運動を取材。実は施設ができると金が入る。なもんで、反対運動もトーンダウン気味。しかし、そんなことじゃ、自分達の首を絞めるぞ、という意味で、人の首に綱がくくりつけられてる絵画だ。「10000カウント(《反原爆》シリーズ)」は、水爆実験の被爆海域の魚が調べられるため、網で吊し上げてるというもの。憮然とした魚の表情がよい。「規格品」は巨大な絵画。おぞましき赤い機械から、機械生産のソーセージがどんどん出てくる。不気味な絵だ。
 
上の階へ行く。モノクロで有機的でシュールな構成の絵が並ぶ。池田の絵はよくシリーズがあり、それぞれテーマを持っている。「《化け物の系譜》シリーズ」は、気になった事象を化け物として描いてしまうもの。ポスターにもなっている百目のごとき「巨人」もここだ。「企業」はひたすらグロい装置のごとく。「谷間」は、円筒状の巨大構造物(工場)が町に横たわる。「倉庫A」は、ネズミとの戦い。「現場」は、どこの現場か分からないが、なんかすげえ。「アトラス」は、大陸間弾道ミサイルの驚異。
 
「第2章 挫折のあとさき」戦時中は、軍国主義だったのが、戦後になって急に民主主義になり、おまけに「実は僕、戦争なんて反対だったんでちゅ」とイケシャアシャアと言ってのける輩も出現し、池田は社会派絵画に挫折してしまった。絵のテーマも社会派よりも、内面を向いたものとなっていく。「《禽獣記》シリーズ」は、これも妖怪のようなものだが、先の化け物と違い、社会的な立場の誰かを指しているわけではない。ブリューゲルやボスの奇想画みたいな雰囲気を持っているぞ。「《百仮面》シリーズ」は顔のごとき者を仮面として使ってみよう、という絵画。「《玩具世界》シリーズ」はちょっとグロ目の画面の中に、急に出現する鮮やかな日本の玩具。長男が生まれたんで描いたっぽい。
 
次は「第3章 越境、交流、応答、そして行為の方へ」。とうとう絵も描けなくなり……確かにこの頃の「胎児の夢」なんて絵もあるが、なんか限界な感じがする。で、パフォーマンス活動を開始。「大芸術瞥見函」は大きなサイコロのとような立体。中を覗いて見てみたいができない。「ASARAT橄攬環計画」(「かんらんかんけいかく」と読むようじゃ)は……なんだっけな。オリーブの実を埋めるというのを、本当は地球を一周するように行う計画なんだけど、実際やったのは山の周りを一周。それでも大計画。あと「梵天の塔」というもの。なんか「ハノイの塔」ってゲームあったよね。大きさの違う円盤でできた塔を、ある決まったルールで片側から片側に移動させる。その円盤数が64枚で、移動させるにゃ膨大な時間がかかるが、やるというもの。その計画だの模型だのという、計画そのものが作品。膨大な年月を感じさせる。
 
「第4章 楕円と梵」ということで、絵画に戻ってきた。楕円をモチーフに作品を作り始める。「楕円空間」は一見楕円のデザインっぽいが、よく見ると塗ってある模様が池田の生き物で埋め尽くされていたりする。そして「BRAHMAN」というシリーズ。かなりの数の絵画(それでも一部らしい)が展示されている。これが力作であって、どれも有機的な生命を感じさせる生き物のような、胚のような、妙な造形物群で迫ってくる。広い壁一面にびっしり。これに唸らぬ者はない。
 
「第5章 池田龍雄の現在形」ということで、まず「《箱の中へ》シリーズ」。箱の中に作品が作られる……が、さすがに箱となるとジョゼフ・コーネルが思い出されてしまい、コーネルにはちょっとかなわない。いや、悪くないんだけどね。「《場の位相》シリーズ」になると、もう抽象画だ。とうとうここまで来たのかあ。
 
社会的視点の作品であれ、生命の気配のごとき作品であれ、とにかくいろいろ目を引く。権力が嫌いな人やヒエロニムス・ボスが好きな人は大いに楽しめよう。
https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201802151518677542

|

« 五木田智央 PEEKABOO(オペラシティアートギャラリー) | トップページ | 現代美術に魅せられて(原美術館) »