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2018年10月 7日 (日)

カール・ラーション(損保ジャパン日本興亜美術館)

十九世紀から二十世紀あたりのスウェーデンの画家である。そんで「スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家」だそうです。近頃日本は女性差別が酷くて、北欧こそ理想だみたいなこと言ってるのが少なくないもんで、じゃあスウェーデンの暮らしってどんなんだ、とか思って行ったんだけど、考えてみりゃあ十九世紀じゃあ、あっちでもそう変わらんのですな。まあそれはあとで分かる。

スウェーデンの国民的画家だっつっても、こっちにゃなじみがないもんで、そのためか最初に画業の紹介。普通あとでやるもんだけど、最初に使ってた絵筆とかスモックとか出しちゃう。そのコーナーに絵は一つで「《冬至の生贄》のための男性モデル」なんかタイトルがスゲエが、国民のために王様が自ら生贄になったってイイ話だそうで。しかし裸体ですが、体の模様はタトゥーか? まあ悪くない絵ですよ。 

それから「絵画・前期」ってコーナー。パリに留学してアカデミック学んでたってさ。水彩に凝っていて、「モンクール風景」ってのがにじみを生かした作品。ちょっと暗いけどね。「野イバラの花」が普通にうまい。「あしたはクリスマス・イヴ」これはなかなか面白い。ドアの外でワクワクする子供達の絵で。ノーマン・ロックウェルみたいな温かいセンスに満ちていますな。ロックウェルよりも写実っぽいのも新鮮だぞ。「おやすみなさい」も暗い中に灯る光がいい感じだ。日常ではない、非日常も描けるじゃんと思った。

「絵画・後期」のコーナー。カーリンという女性と結婚して、パリを離れて祖国の「リッラ・ヒュットネース」という家に引っ込み、絵画は家族が中心になったりする。子供が8人だってお(一人は3ヶ月で亡くなったそうだが)。子沢山のまさに理想の家庭。「母と娘」では人物よりも、彫刻が施された壁とか、そういうセンスに満ちた家の様子を伺い知ることができる。絵として守りに入っているのかと思うとそうでもなく、「絵葉書を描くモデル」では絵葉書を描いているのが裸婦であって非日常感も捨ててないと見たじょ。「庭のモチーフ」も幻想絵画っぽいし、結構象徴派みたいなことができるんじゃないかと思ったりするのです。

それをさらに思ったのが次のコーナー「挿し絵の仕事」こういうのもちゃんとこなしていたのですが、実はここが結構イイ……というか私好みの象徴派的非日常世界。モノクロの絵画「『森の中の城』エコーの城」ちょっと神秘的な城の雰囲気が出てるであろう。「『エジプトの土地から来た異邦人』踊り」女性が踊っているのだが、結構なまめかしい感じがする。いいじゃん。「『出発』孤独なアシム」のシルエット風の人物。象徴派的ですな。「小川のほとりのエーランドとシンゴアッラ」もロマンティックな雰囲気。どれも「スウェーデンの家庭」じゃない(当たり前だ)が、家庭を描いた絵画ではできないことをこういうところで思いっきりやってる感じがする、というか、本来ラーションって人はこういう路線の方が得意なんじゃなかろうかと思う次第である。エヴァレット・ミレイみたいな感じでな。

「版画~家族の肖像」ここでは家族がモデル。全般的に手堅く温かく家族を描いているが、最初の自画像(非常に小さい)だけはムンクのような不安感いっぱいで描かれている。実はこれが実体で、明るい家族は幻想じゃないかって気もしてくるぞ。でも家族の絵はやはりよくできていて「チェシュティのお客様」って絵の女の子二人なんて万人ウケしそうですな。

「ジャポニズム」のコーナー。実はラーションは日本美術、特に浮世絵なんかに魅力を感じていて、そのエッセンスを取り入れた。ポスターにもなっている「アザレアの花」は手前に花を大きく描いたもので、日本の浮世絵の影響だそうだ……まあ広重ですね。やったぜ世界の広重。あと、所有していた国貞の浮世絵を2つ展示。で、ここまでが展示の前半。では後半は何か?

後半は「ラーション家の暮らしとリッラ・ヒュットネース」ということで、この家でいかに暮らしていたか……もっと言いますと、妻のカーリンが家で何をしていたか。そう、カーリンはこの家で使うテキスタイルのデザインなんかをやっていて、それをラーションが家族像を含めた絵画にして発信したもので、スウェーデンの理想家庭みたいになっていったのだ。がしかし、カーリンもかつて絵を描いていて、結婚を期にやめてしまったのです。それで家の中のことに集中した。このあたりが、男女平等の北欧でも、まだ19世紀的感覚なんだそうで、ラーションにしてもカーリンを家の中にいる天使のごとく崇めてはいたが、カーリン自身を独立したアーティストとは思っていたかったとのこと。うーん、しかしそうであるなら、今や21世紀なんだし展覧会のタイトルを「カール・ラーション&カーリン」ってな感じにした方がいいではなかろうか。
展示はリッラ・ヒュットネースの部屋構成から始まって、テーブルセットやら椅子やらカーリンがデザインした花台複製)やらの家具が展示される。絵画はパネル紹介だったりするもんで、本物はほとんどなし。ラーションが家を描いた画集が並んでいるが中は見えない。ここの主役はカーリンで、カーリンがデザインした「『ユール(クリスマス)』誌表紙」のチューリップの模様がイカす。テーブルクロスのデザインもよし。家紋風のテーブルクロス、アメリカンテイストなブランケットも面白い。いずれも複製だが。「クッション(ひまわり)」も四隅にひまわりがデザインされていていいですな。傑作としては「タペストリー(四大要素)」ちょっと抽象画風で意味を象徴するデザイン。このあたりはやはりアーティストと言ってもいいでしょう。

最後に椅子やテーブルなんかも置いてあるリッラヒュットネースの一角の再現があって「フォトスポット」になっている。みんなで展覧会を盛り上げよう、となっているが、中に入れないんだよなあ。椅子に座らせてくれりゃあ面白いのに。でも来てる人は結構写真撮ってましたな。

ラーション絵画がメインというより、夫妻の生活スタイルを含めたところを感じ取るとよいのでは。また、私的には、家庭の絵画では収まりきれないラーションを感じたのが面白かったねえ。
https://www.sjnk-museum.org/program/current/5469.html

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