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2018年12月10日 (月)

吉村芳生 超絶技巧を超えて(東京ステーションギャラリー)

これはマジでヤバい! 私は力業とか結構好きなんだが、その期待に応えて余りある狂気スレスレのパワードローイングにもう大騒ぎだぜ。しかもほとんど鉛筆とか色鉛筆、マジかよこれ。

最初にある「365日の自画像」見かけはほとんど写真だがなんと鉛筆画。毎日の自分の顔を描いている。おおっ! 実は毎日写真に撮ってそれをトレース、なもんで、写実画とはちょっと違うかもしれないが、毎日毎日の連続した365日分の顔が並ぶ様はインパクト十分。ちなみにこれを全部描くのに9年かかったって(ほかの仕事もしつつだそうだが)。「ドローイング 金網」は、17メートルに渡って鉛筆で細密に描かれたただの金網。金網だけでそれ以外の何物でもなく、それが17メートル。もうあまりのことに笑いがこみ上げてくる。まあ、これも版画の技法を使って一旦紙に載せてトレースで作っているらしいが、それにしたって凄すぎる。「友達シリーズ」これは友達の写真をそのまま鉛筆画に。これもほぼ写真じゃん。「ドローイング 新聞 ジャパンタイムズ」新聞をまんま描いたもの。これもアルミを介して転写してトレース。このあたりで、ただの転写には飽きてしまい、写真を細かいマス目に区切り、それぞれのマスで明るさを10段階ぐらいに決め、数字を記入し、それに応じたハッチ(斜線)で別の紙に描いていくという、気が遠くなるような作業で作られた作品が並ぶ。「河原」という河原の風景や「FLY」という蠅など。中でも「ジーンズ」これはGパンの腰の部分を拡大した作品だが、元となる写真、細かい数値を記入した「下絵(数字)」があり、最終作品も出ていて、その膨大な制作プロセスを確認できる。解説の紙ももらえるから家でも確認できるぞ。しかし、作業としては機械的で、今時ならフォトレタッチソフトでできてしまいそうだ。でもそんなソフトもない時代に、その効果の画面を作ったのだ。人間フォトレタッチソフトウエア。

「徳地・冬の幻影」が超異色作。一見繁る草を鉛筆で描いている感じだが、これがだまし絵というか隠し絵になっていて、そこらじゅうに犬の顔やら龍の顔やら、人の姿が確認できる。何かいるような気配……やっぱりいた、という効果。でもこういうのはこの1作。

階を降りて、今までモノクロだったのが、いきなり鮮やかな花の世界。これは実は長いスランプがあって、その後にこうなったらしい。もちろん今度は色鉛筆使用。「ケシ」は花が異様に鮮やか。「ヒマワリ」に至っては鮮やかだけでなく、ザワザワしてキモいレベル。普通に描くだけじゃ飽き足らなく、表面をわざとこすってダメージを与え、ちょっと普通でない感じを出す。「フジ」とか。それから「コスモス(絶筆)」は最後の作品なんだけど。なんと全体のイメージから描いてるのではなく。大画面の左から描いていって、途中で終わっている。まるでインクジェットプリンターが途中で止まった感じ。大画面のこの作り方にも驚きだ。「未知なる世界からの視点」これは10メートルの大作。水に映る草花なんだけど、上下反転させたものを完成としたため、何か超現実世界の絵画のようだ。「無数の輝く生命に捧ぐ」は写真からトレースしている藤の花。写真は金網越しだが金網は描かず、複数写真を組み合わせているから実景でもない。元写真も展示中。見事にアレンジして完成させている。

それから最後は「自画像の森」ということで自画像だらけ。カラー写真からトレースしたものいくつか。しかし何といっても、新聞と組み合わせたの「新聞と自画像」シリーズが秀逸だ。拡大した新聞紙面に顔が浮かぶが、なんと新聞ごと描いているのです。文面の文字や広告まで丁寧に描いているではないか。これは2.7倍に拡大した新聞をカーボン紙で写して、それをトレースしたんだって。しかしその手間は凄い。311の新聞ではそれなりの表情をしている。「新聞と自画像2009年」全364点。2009年、元旦を除いて毎日毎日新聞に自画像を描いたそうな(さすがに新聞ごとは描いていない)。新聞紙面に反応したような百面相が面白い。新型インプルが出てきた時はマスクしている。インフルが流行れば赤い顔になった。それにしても364枚とは壮観だ。しかし、さらに上があって、2011年にパリに1年間滞在したが、その時にほとんど外に出ずに、新聞紙面に自画像を描いていた。その数なんと1000点。これは一部しか展示されていない。展示は残りが積んである。

写真や版画技法も使っているので、正統的な写実画好きにはちょっと邪道っぽく感じるかもしれない。が、膨大な手間をかけて作られた作品群には驚くしかない。
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201811_yoshimura.html

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