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2019年7月 7日 (日)

折元立身:絵葉書のドローイングとポストカードのシリーズから(青山|目黒)

世界的なアーティストなのに日本ではあまり知られていない、というか私もちゃんと知ったのは、ここ数年といったところなのです。昔、「パン人間」(顔にパンをくくりつけて歩いたりするパフォーマンス)なんてやってたのは一応知ってたけどノーマークで。確か原美術館で個展(パン人間とアートママだったよな)をやってたけど、それも特に行かなかった。初めて引っかかったのは森美術館の「LOVE」展、「ベートーベン・ママ」の映像が出ていた。何か? おなじみ「運命」の音楽に合わせて、年老いたアルツハイマーの母親の頭をモシャモシャやる、というそれだけの映像。……なんだこりゃ? 普通、老いた母親とのコラボって、何か母への感謝とか懐かしの風景とか、そういう、なにかホンワカした親子の世界の表現だと思っていたらコレなのだ。なんか想像の外にある。モヤモヤしまくる。それからしばらくして、川崎市民ミュージアムで個展をやるというので、なんとなくアーティストトークに行った。折元氏は、日本は天才を育てないんで、この国はもう嫌だとかを連発。ベルリンに住みたいとか言う。サイン入りのポスターをもらった。それより展示に驚いた。膨大な量だった。その日は時間がなくて、後日また行った。そこで初めて、折元立身というとんでもないアーティストの全貌を目にした。自由奔放にして無数のドローイングと、世界で開催されるぶっ飛んだアートパフォーマンス。年老いた母親のケアとそこから生まれるアート作品群という、時代を先取りしたような世界。そして2017年に川崎市岡本太郎美術館で開催された日本ではあまりないダークなパフォーマンス「26人のパン人間の処刑」に参加して9番目に処刑された。あの日は台風が近づいていて嵐だった。嵐の中の城で繰り広げられたかのような、あれは、間違いなく伝説的パフォーマンスになったはずだ。

アートママこと母親の男代さんは亡くなったが、アートママは続いている。今回、ロンドンとベルリンから送られてきたはがきは全て男代さん宛なのだった。海外の滞在先で見てきたことや感じたことを絵で描く、しばしば文章も入るが、やはり絵が面白い。ペン描きも水彩もある。うまいのかと言われると、そういう感じではなくて、いわゆるヘタウマの部類に入ると思う。膨大な数のドローイングを残しているので、うまく描こうと思えば描けるはずだ。でも現実的に心に残った一瞬を残そうと思えばこそ、瞬発的な描写になるんじゃなかろうか。そこには現実が常にある。源泉であるアートママは長い間現実だったし、今もまだ現実で居続けているのだ。
展示では絵葉書一つの表の裏が一つの額縁に入っている。裏表をはがして加工したのかなと思ったらそうではなくて、写真面の方は原寸大のカラーコピーだそうだ。なるほど。

15時から公開政策とのことで、14時半過ぎに行ったところ、折元氏本人が既に在廊。なんか気さくにサインなんかに応じていたもので、あー私もあの、川崎の図録を持ってくればよかったなと。実は持ってこようかどうしようかと思って結構重いんでやめちゃったんだけど、ちょっと後悔。で……公開制作がなんと「18時からになります」とのこと。え? 理由は分からないが、もともとそのつもりか、あるいは気が変わったとか、天才だからこれはもうこちらはどうこうできず苦笑するしかない。少なからぬお客はいたけど、多分皆同じ思いだ。さすがに3時間近くここにいるのは無理なんで、しょうがないんで、今回のシリーズの図録があって、買おうかな。買うついでにサインもらおうかな、開いてみると既にサインが書いてあった。おや、サイン入りだな。……いや待てよこれ印刷かもしれん。で、別のもう1冊見てみると、違う色と筆跡でサインが入っていて、あー、じゃあ一つずつサイン入れたんだ。それで、それを購入。既にサインが入っているのにサインを求めるのもヘンなのでそのまま帰ってきたか、家であらた めて見るとなんかおかしい。拡大してみると……えっ? これ印刷じゃん! なぜ1冊ずつ違っていたのか分からぬ。いずれにしてもかようなトリプルショックを受け、しばし立ち直れず。さらに、公開制作の様子があとから写真でアップされていたが……超楽しそうぢゃないか。うぐう……
つまりは……また機会があるであろう。

P_20190706_152100    

展示そのものはもちろんおすすめできます。図録もいいんだけど、やっぱり生の絵はいいですな。
http://aoyamameguro.com/artists/tatsumi-orimoto-postcard-drawings-and-postcards-as-documents/

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